ストーブリーグも話題の中心に
日本ハムの日本一で幕を下ろしたプロ野球の2016年シーズン。あれから10日が経ち、オフを迎えた現在もなお、日本ハムは話題の中心に君臨し続けている。
まず大きな衝撃を与えたのが、“大型トレード”の敢行だ。かつてのリーグMVP左腕・吉川光夫と若手外野手の石川慎吾を放出し、巨人の背番号「55」を背負った男・大田泰示と左腕の公文克彦を獲得。ファンを驚かせた。
それに続いて7日には、陽岱鋼がFAを宣言。日本シリーズ終了直後には「残留」という報道も見られたが、男は涙ながらにチームから離れることを決心した。
決して「戦力外」ではない
特にファンを驚かせたのが、陽が会見で語った「戦力のメンバーの中に自分の名前が無かったのを知ってから(FAを)考えた」という言葉だろう。そのまま純粋に受け取れば「戦力外」。これには怒りを抱くファンも少なくなかった。
ただし、これを読んでそのまま「戦力外」と受け取ってしまうのは正解ではないだろう。
チームでも屈指の人気を誇る選手であり、母国ではスター。健康ならば3割近い打率に2ケタ本塁打、2ケタ盗塁が期待できる攻撃力を持ち、ゴールデングラブの守備力も兼ね備えた男。こんな選手を「戦力外」とするチームなどあるはずがないからだ。
そこでネックになるのがコストの問題。今季の推定年俸が1億6000万円ということを考えると、130試合の出場で優勝に貢献した男の来季年俸は2億超えが濃厚となってくる。
しかし、来年で30歳を超えるという年齢的な部分や、ケガがちでフルシーズン健康に戦うことが困難と見られる点、後釜の育成状況などなど、様々な状況を鑑みた時、陽に大きななコストをかけることが果たしてチームにとって“最善”なのだろうか...。
後釜候補には、同じ右打ちで身体能力の高い岡大海がすでに日本シリーズでセンターを任されており、トレード加入の大田もこの争いに割って入ってくる。ほかにも両打ちの元気印・杉谷拳士や、左では谷口雄也、浅間大基など、有望選手がゴロゴロいる。
このような様々な要素から考えた上で、「ここまでがいっぱいいっぱいです」という提示をするのが球団側の限界になる。「いくら出してでも引き留めよう」という姿勢がなかったという部分から、「必要としていない」という流れに繋がってしまったのではないか。
貫く独自のスタイル
思い返してみると、いつも周りが驚くような決断を下しては、周囲を納得させる結果で返してきたのが日本ハムというチーム。
最近だけでも小谷野栄一や大引啓次、鶴岡慎也、田中賢介にダルビッシュ有、森本稀哲、小笠原道大などなど...。毎年のように主力が抜けながらもチームが崩れないのは、獲得から育成までをしっかりと見据えた編成の賜物。こういった“日ハムらしい”スタイルを貫くことができるのも、そこに確固たる自信があるからだ。
このオフのトレードもそう。実績的に見れば「日本ハムが損をした」と思う人が多数かもしれないが、先発として試合を作る能力が年々低下してきている吉川の推定年俸は9500万円。対して獲得した大田と公文は、2人合わせても3000万円にも満たない。
それでも大田は右の大砲としての素質はもちろんのこと、陽岱鋼の後釜候補としても期待ができるし、公文のような左腕はいくらいても困らない。“優勝特需”から各選手の年俸が上がることが予想される中で、このように上手いことコストの管理を進めつつ、しっかりと自チームで輝く可能性を持つ選手を獲得しているのだ。
時にそのドラスティックすぎるやり方に批判の声が挙がることもあるが、実に現実的でかしこい戦い方であるとも言えるだろう。
もちろん、いつ贔屓選手がいなくなってしまうか分からないという不安があるファンにとっては、残酷な球団に映ることもあるかもしれない。でも、決してファンを裏切るような結末にはしない。これが“日本ハムのやり方”なのである。