将来を見据えた大胆なコンバート 次世代の捕手として小林誠司を育成
セ・リーグ3連覇を果たしたものの、クライマックスシリーズで阪神に4連敗し日本一奪還とはならなかった巨人。屈辱的な敗退の後、原辰徳監督は大きな決断を下した。正捕手として絶対的な存在だった阿部慎之助を一塁手にコンバートするというのだ。
近年、ケガの影響などで阿部が一塁の守備につくこともあり、今季は23試合で一塁手としてスタメン出場したが、来季以降は完全にコンバート。原監督は「チームが困ったら、捕手を頼むということがないように覚悟を決めてやる」と中途半端なコンバートではないことを強調している。
昨年のドラフトで獲得し、今季は29試合でスタメン出場した小林誠司を次世代の正捕手としてある程度のメドが立ったこともあるが、阿部のコンバートは大きな影響を及ぼしそうだ。
確かに、今季の阿部は捕手として精彩を欠くことが多かった。特に守備は、ゴールデングラブ賞を受賞したが、獲得票は96票と「該当者なし」の94票をわずかに上回るものだった。打撃面も、プロ入り2年目以降ではワーストの打率.248、本塁打は19本に終わった。当然、コンバートには守備面での負担を軽くし、阿部の打撃をより生かすという考えがある。
阿部の打撃にはプラスになる可能性あるが、チーム全体を考えると……
一塁にコンバートすることにより、阿部の打撃自体にはいい影響は与えるだろう。しかし、チーム全体の攻撃力を考えると、大きなマイナスになる可能性がある。
セイバーメトリクスの中に、攻撃面での選手の活躍を「得点貢献値」として評価するRC(Runs Created)(※注)という指標がある。今季、阿部のRCは64.22。阿部ひとりで約64点をたたき出した計算だ。
他球団のレギュラー捕手では、中村悠平(ヤクルト)の43.93が最も高く、鶴岡一成(阪神)5.55、梅野隆太郎(阪神)17.14、石原慶幸(広島)14.07、會澤翼(広島)32.16、谷繁元信(中日)19.14、黒羽根利規(DeNA)31.98である。
打率.248、19本塁打は阿部としては物足りないが、総合的な攻撃力で見ると他球団の捕手より優秀な成績を残しているということが一目瞭然である。昨季(2013年)に至っては、阿部のRCはセ・リーグ4位の102.78と圧倒的な数値を記録していた。
捕手は守りが大事と言われるように、打撃より守備に重きが置かれることが多いが、打撃もいいことに越したことはない。他球団の捕手が攻撃力でチームに貢献できない中、阿部は攻撃力でもチームの力であり続けた選手である。捕手の攻撃力というアドバンテージがあったことも、最近8年で6度優勝という結果につながった要因のひとつだ。
そのアドバンテージが、コンバートによってなくなる。ヤクルトからFAした相川亮二の獲得が濃厚とも言われているが、相川のRCは16.83に過ぎず、攻撃面では大きなプラスにならない。一塁にコンバートされた阿部が本来の打撃を取り戻す可能性もあるが、一塁は他球団も強打の選手を置くことが多いのが鉄則。捕手のときと比べ、大きなアドバンテージを得ることはないだろう。小林や相川、他の野手でどれだけカバーできるかが優勝へのカギとなる。
V9以来のセ・リーグ4連覇、そして日本一奪還へ、一種の賭けに出た原監督。吉と出るか凶と出るかは、約1年後に結果として分かる。
(※注)
・RC(Runs Created)
選手の活躍を得点に貢献した値、「得点貢献値」として評価する指標。1シーズンで、その選手がどれだけの得点を生み出したかという意味になり、シーズンが進むにつれて数値は自ずとあがっていく。また、各選手のRCをすべて足すと、そのチームの総得点とほぼ同じ数値になる。
文=京都純典(みやこ・すみのり)