コラム 2014.11.21. 17:04

イチローが打ち立てた262安打の金字塔から10年…MLBの変わったこと、変わらなかったこと

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現地時間2004年10月1日、MLBのシーズン最多安打記録を更新したイチロー。あれから10年・・・[Getty Images]

戦力の均衡化が進むも、選手の年俸は高騰が続く…


 日米野球が終わり、国内外の野球界は本格的なオフシーズンを迎えた。メジャーリーグではスモールマーケットの代表ともいわれたカンザスシティ・ロイヤルズがワールドシリーズに進出。ヤンキースに移籍した田中将大投手が開幕から圧倒的な投球を見せるなど日本のファンにも印象深い一年となった。

 その田中が高校1年だった10年前の2004年、メジャーではボストン・レッドソックスが86年ぶりの世界一に輝いた。個人ではイチロー(当時マリナーズ)が262安打の金字塔を打ち立て、バリー・ボンズ(当時ジャイアンツ)がシーズン記録となる232四球(うち敬遠120)、出塁率.609など信じがたい幾つもの記録が生まれた年でもあった。

 それからちょうど10年がたった2014年シーズン。メジャーリーグはどう変わったのだろうか。

 まず、大きく変わったのは、10年前に比べると30チームの戦力差がぐっと縮まったことだ。今季は100勝を挙げたチーム、100敗を喫したチームが一つもなかった。これは2007年以来、7年ぶりのことになる。2004年はヤンキースとカージナルスの2チームが100勝以上、ロイヤルズとダイヤモンドバックスが100敗以上を喫していた。また、1998~2000年のヤンキース3連覇以来、14年間にわたって連続世界一を達成したチームは生まれていない。

 戦力の均衡化に大きな影響を与えているのが、MLBで導入されている『贅沢税(ラグジュアリー・タックス)』である。選手に支払う年俸総額が一定額を超えた球団は、超過分に対して課徴金が課されるこの制度(2002年の労使協定で締結)は、資金が潤沢な球団による有力選手の一極集中防止に大きな役割を果たしている。同制度の開始以来、12年連続で贅沢税を支払い続けているヤンキースのようなチームが存在しているものの、細かくルールや課徴金の料率を変えて、リーグの活性化を促している。

 しかし、その一方で、今週に入ってマーリンズがスタントン外野手と13年総額3億2500万ドル(約384億円)という北米スポーツ史上最高額の契約を結ぶなど、選手の年俸高騰は依然続いている。ヤンキースが贅沢税を払ってまで良い選手を集めようとしている点も、年俸高騰を助長する原因になっている点も触れておかねばならない。メジャーにとって戦力の均衡化とともに年俸高騰に歯止めをかけることは、10年前と変わらぬ課題といえよう。

 それでは戦力の均衡化によって好試合が増えて観客は増えたのだろうか。10年前の1試合平均観客数3万401人に比べると僅かに少ない3万346人とほぼ横ばい。この10年間は2007年(3万2785人)をピークに横ばいの状態が続いている。


日本人メジャーリーガーにも表れている“投高打低”


 10年前と今季をもう少し細かい数字で比較してみると、打高投低から投高打低にシフトしたことが顕著にわかる。メジャー全体の本塁打数は2004年の5451本(=1試合平均1.12本)から約23%も低い4186本(=1試合平均0.86本)に減少した。得点も1試合平均4.81から4.07にまで減少。最後にシーズン1試合平均得点が3点台だったのは1976年まで遡る。

 今季はここ40年ほどで最も投高打低だった年だったといえるだろう。完封試合の数も10年前の251試合から約40%増の353試合に、奪三振率は6.60から7.73に増え、打者の技術が投手の進化に追いついていない印象だ。

 最後に、2004年にメジャーにいた日本人選手の数字を振り返ってみる。その年は言うまでもなく262安打を放ったイチローが渡米後、最も輝いた年だった。松井秀喜は移籍2年目でメジャー自己ベストの31本塁打を放った。松井稼頭夫はメジャー1年目で打率.272、7本塁打をマーク。3人いた野手全員が規定打席をクリアするなど日本人打者が活躍した。

 一方、投手は8人の日本人がメジャーで登板。石井一久(当時ドジャース)、野茂英雄(同)、大家友和(当時エクスポズ)の3人が主に先発で投げた。石井は13勝7敗と好成績を残したが、野茂は4勝11敗、大家は3勝7敗と苦しいシーズンを送った。救援では高津臣吾(当時ホワイトソックス)がメジャー1年目で19セーブを挙げる活躍を見せている。

 10年がたった今季、当時メジャーでプレーしていた現役日本人メジャーリーガーはイチローただ一人となった。そのイチローも2014年は出場機会が限られ、我慢のシーズンを送っている。打者では他に青木と川崎も存在感を見せたが、3人のうち規定打席に到達したのは青木だけ。

 対照的に、投手では10年前より1人多い、9人がメジャーで登板。岩隈、田中、黒田、ダルビッシュの4人が2桁勝利をマーク。上原が26セーブ、田沢が2年連続で71試合に登板するなど安定した活躍を見せた。さらに松坂、和田、藤川もケガからの完全復活を予感させる投球を見せてくれた。日本人選手だけを見ても、10年前に比べて投高打低が進んだのがわかる。

 今から10年後の2024年、メジャーリーグの戦力均衡化は進んでいるだろうか?再び打高投低の時代になっているのだろうか?日本から新たなスター選手は誕生しているだろうか?10年後に2014年シーズンを振り返るのを今から楽しみにしておきたい。

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