MLBで本格的に導入されたチャレンジ制度 1回の判定で要する時間は平均で2分
今季からMLBで導入されたビデオ判定によるチャレンジ制度。日本のプロ野球のビデオ判定は、ホームランかどうか、もしくは外野フェンス付近への打球で用いられるが、MLBではアウトやセーフ、フェアかファウルにまで広く用いられている。
MLBがビデオ判定を導入したのは、北米4大スポーツでも最も遅い2008年のシーズン途中からだった。翌シーズンから本格的に導入されたが、対象となるのは日本プロ野球同様にホームラン性の打球に限られていた。それが発展して、現在の形に至るということになる。
チャレンジ制度とは、審判の判定に異議がある場合、6回まで1度、7回から試合終了まで2度ビデオ判定を要求する権利(チャレンジ権)が与えられる制度だ。異議が認められた場合、2度までを上限とし、再び要求する権利を与えられる。一方、判定通りだった場合、異議を唱えたチームはその試合でのチャレンジ権を失う。
監督がチャレンジ権を行使した場合、ニューヨークにあるビデオセンター(リプレイセンター)に控える審判が、さまざまな角度からの映像を検証し、球場で下された判定の正否を決定する。
導入直後の今季4月、チャレンジ制度が利用された回数は合計191回。そのうち50回は判定通り、85回で判定が覆り、ビデオでも判定が難しかったためジャッジ通りとなったケースが53回あった(そのほかにボールカウントなどの確認で3回利用された)。なお、映像で確認するために要した時間の平均は2分6秒。日本でのMLB中継は、日本人選手が所属しているチームの試合が多いが、それだけでもチャレンジ制度の場面を目にしたファンも多いのではないだろうか。
日本にもチャレンジ制度の導入は可能か? クリアしなければならない課題はまだ多い……
では、日本でもビデオ判定の適用範囲を広げ、チャレンジ制度を本格的に導入するのは可能なことだろうか?
MLBの場合、総工費10億円以上とも言われるリプレイセンターで各球場の映像を一括管理し、当該球場にいる審判と連絡を取り合って対象となったプレーを確認している。そのうえ、より正確な判定のために各球場にカメラも増設した。
また、ビデオ判定中の数分間をCM枠として企業に売り、費用をねん出するなどビジネスとしても確立されつつある。
しかし、日本の場合は各球場にあるモニターで中継映像を見ながら審判が判定しているに過ぎない。MLBと比べ、あらゆる角度で当該プレーを確認できる状況ではないのである。
日本の場合は、地方球場でも試合を開催することがあり、すべての試合でチャレンジ制度を用いるのは現在のところ難しい。もちろん、体制を整えたMLBでも、ビデオ判定が難しかったためジャッジ通りとなったケースがまだ多くあり、確実なジャッジが厳しいように思える。そう考えると、MLBの今後の過程をじっくり見極めていくことも、しっかりとした判定基準を構築するひとつの手段とも言えるであろう。
デトロイト・タイガースのトリー・ハンターはこう語った。「人間的要素が加わることが野球のおもしろさで、際どいプレーを審判が人間の目で判断することも含めて野球だと思う」と。確かに、あらゆることを機械に頼るのは味気ない気もするが……今後、MLBのチャレンジ制度、そして日本におけるビデオ判定はどう進化していくのだろうか。
文=京都純典(みやこ・すみのり)