111球目は154キロの高めの直球だった
19日、楽天戦(コボスタ宮城)で今季初完封勝利。最後の打者ペーニャにはスライダーでカウントを稼ぎ、勝負球は渾身の154キロで空振り三振。これで開幕から無傷の4連勝、自己最長の22イニング連続無失点。防御率0.94(リーグ3位)、奪三振33(同1位)、28回2/3を投げ被本塁打0。チームも貯金6でパリーグ首位を快走中と3年目のシーズンは絶好のスタートを切った。大谷は開幕戦から中7日で2試合に投げ、19日の試合は今季初めての中6日での登板。野手としては今季6試合(3番DH4試合・5番DH2試合)にスタメン出場し、打率208、1本塁打、4打点という成績が残っている。
昨季は日本球界初の11勝&10本塁打を達成。今さらながら二刀流は過去のモデルケースがあまりに少ないので、その是非をロジカルに検証するのが難しい。99年、阪神時代の新庄剛志が巨人とのオープン戦で1イニングを投げたあとセンターの守備に回ったが、あくまでノムさんテスト。それ以前では68年に新人の永淵洋三(近鉄)が出場109試合中、12試合に登板。代打でプロ初本塁打後、リリーフ登板から右翼の守備に就くなど同じ試合に「投手&野手」が計5度あった(ちなみに酒豪で知られる永淵は、水島新司の漫画「あぶさん」の主人公・景浦安武のモデル)。71年、外山義明(ヤクルト)は出場74試合中33試合で投手として登板も、左肘の故障に泣き二刀流を断念している。
仮に大谷が今季15勝を挙げようが、投手に専念すれば20勝はできると言われることだろう。「二刀流のままではメジャーは厳しい」という声もあれば、ファンとしてはこのままその挑戦を見てみたいという気持ちも当然ある。高卒3年目、20歳の才能に対して語られる様々な可能性。当初は無謀と揶揄されたチャレンジが、たった3年間でここまで来たのだ。『週刊ヤングジャンプ』では男性としてあのマラドーナ以来21年ぶりの表紙を飾り、人気テレビ番組アメトーーク!においては『大谷翔平スゴイんだぞ芸人』が放送される。例えメディアから猛スピードで消費されようと、それを上回る速さで成長を続ける背番号11。気が付けば、大谷の二刀流は「エース」と「クリーンナップ」の両立というステージに突入しつつある。
これは歴史だ。偉大なる王貞治の一本足打法がホームランの常識を壊し、天才イチローの出現によって200本安打の概念が変わった。そして2015年、大谷翔平の活躍により、日本球界に二刀流という新ジャンルが確立されようとしている。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)