脈々と流れる“勝負師の血”
原辰徳率いる巨人が開幕から苦しんでいる。
主力選手の高齢化と故障者に苦しみながら、昨季はどうにかリーグ3連覇は達成したものの、クライマックスシリーズでは阪神に4連敗の屈辱。指揮官は根底からチーム作りを始める決断を下した。
主将であり、チームの要の捕手・阿部を一塁にコンバート。その穴は若手の小林に託す。西村、山口、マシソンの必勝の方程式も壊し、新守護神に沢村を充てるなど今季のチームスローガンである「新成」を目指すはずだった。
ところが、本番を迎えてもチーム状態は上がらず、開幕7試合で阿部を再び捕手に戻す苦肉の策。5番打者としてスタートした村田も打撃不振が続き下位打線に降格。気がつけば先発メンバーにはベテランの高橋由や井端、金城らが名を連ねる状態では「新生」とは程遠い。おまけに指揮官自らが4月中旬にはインフルエンザで自宅静養を余儀なくされる。まさに踏んだり蹴ったりの発進となった。
元来が動きを求める監督である。王貞治、長嶋茂雄といった先輩の率いた巨人は豊富な資金力にモノをいわせてトレードやFAで大物選手を獲得、重厚な布陣を敷いてきた。
ところが原時代になるとそれに加え盗塁、ヒットエンドランなどの小技も駆使。二軍からも生きのいい若手を積極起用するなど総力戦にチームの活気、結束力を求めてきた。
その結果が通算11年の監督生活でリーグ優勝6度、日本一は3度を数えた。今や実績は巨人にあってV9の川上哲治に次ぎ「平成の名将」と言って過言ではない。
現役時代は「若大将」のニックネーム通りさわやかさはあっても勝負師のイメージはない。だが系譜をひも解けば指揮官としての資質にも納得だ。
父の貢(昨年死去)は高校野球の三池工、東海大相模で全国制覇、東海大でも手腕を発揮した名伯楽。「親子鷹」として父の背中を見て育った辰徳が監督就任後も悩んだ時にはアドバイスを送っている。
加えてもうひとり欠かせない存在が元巨人監督の藤田元司だろう。現役時代は「瞬間湯沸かし器」と呼ばれた激情家でありながら指導者としては選手を信頼する用兵で結果を残した。
原のドラフト1位クジを引き当てた藤田とは師弟関係で結ばれ、家族ぐるみの付き合いをしてきた。父・貢の「勝負師の仕掛け」と恩師・藤田の「愛と忍」が監督・原の血には流れている。近年の中でも最も不安要素の多い船出。いきなりその真価が問われる時がやって来た。
文=荒川和夫