これまでほとんど投げなかったインスラを多投
右手首の炎症と右前腕部の張りで故障者リスト入りしていたニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手が、日本時間4日のシアトル・マリナーズ戦で復帰登板を果たした。41日ぶりのメジャー登板は7回を3安打1失点、無四球9奪三振。申し分ない内容で今季3勝目を挙げた。
復帰初戦で見事なピッチングを披露した田中だが、そのピッチングスタイルには大きな変化が見て取れた。
昨季の田中は、日本時代のように速球とスプリットを中心に、スライダーやツーシームを交ぜながらピッチングを組み立てていた。初球からスプリットを投げることが多く「田中=スプリット」というイメージがあったことは間違いない。
メジャー2年目となる今季。田中はそういったことを警戒してか、スプリットの割合が減らし、ツーシームを中心に打たせて取るスタイルを模索していた。一例を挙げれば、左打者に対し、内角のボールゾーンからツーシームを変化させる、いわゆるフロントドアの球を投げる場面が故障者リスト入りする前から何度も見られた。
復帰登板では、そこに新たな武器が加わった。
右打者の内角のボールゾーンからスライダーを変化させる「インスラ(インコースのスライダー)を投げるようになったのだ。スライダーも田中の決め球のひとつだが、これまでは左打者の外角や内角、右打者の外角に投げることはあっても、インスラはほとんど投げていなかった。
右打者からも左打者からもフロントドアで見逃し三振
4日の試合で田中が奪った9つの三振のうち、空振り三振が2つ、見逃し三振は7つ。
空振り三振はいずれもスプリットを振らせたものだ。見逃し三振7つの結果球は、速球が2球、インスラが3球、左打者へのツーシームが2球。右打者と左打者からフロントドアで見逃し三振を奪ったのである。リトル球審が比較的広くストライクをとっていたこともあるが、それを差し引いても見事なキレとコントロールだった。
昨季までの田中はスプリットを武器に「縦の変化」で多くの三振を奪ってきた。それが今季はツーシームとスライダーを中心に「横の変化」で打者を攻めることが増えた。相手の打者は、これまで縦の変化をケアすればよかったが、横の変化も加わったことで攻略がより難しくなったと推測することができる。
先日の登板、最後の球はMLB自己最速タイの154キロを記録するなど速球に力強さも戻ってきた。腕の振りを見ても、ケガに対する不安はなくなったと見ていいだろう。
田中の次の登板予定は、日本時間10日のワシントン・ナショナルズ戦。ナショナルズには5月に15本塁打を放つなど、MLB屈指のスラッガー、ブライス・ハーパーがいる。ハーパーに対し、田中はどのようなピッチングを見せるだろうか。その対戦が、ファンを熱狂させるに違いない。
文=京都純典(みやこ・すみのり)