今シーズンも、セ界の主役はこの男だ。
今月16日で23歳になる東京ヤクルトスワローズの山田哲人は、4年目の昨季、自身初の規定打席に到達すると日本人右打者のプロ野球記録を更新するシーズン193安打を放ち大ブレイク。
打率.324、29本塁打、89打点に加えてOPSは.941を記録。4月から9月までNPB初となる6カ月連続の先頭打者アーチをかっ飛ばし、恐怖の1番バッターとして君臨した。
12日現在、19本塁打で同僚の畠山和洋(ヤクルト)に並びリーグトップタイ。さらに15盗塁で梶谷隆幸(DeNA)に並びこちらもトップタイ。過去に日本球界で同一シーズンに本塁打王と盗塁王を獲得した選手は誰ひとりとしていない。
NPB史上最強の5ツールプレイヤーと称された西武時代の秋山幸二は、87年に43本でホームランキングを獲得し、90年には51個で盗塁王に輝いているが、その超人・秋山でさえ本塁打王と盗塁王の同時獲得は一度もないのだ。
前人未到の大記録に挑む背番号23。今季も開幕から主に1番を打っていたが、4番畠山が左足肉離れで戦線離脱。7月10日のDeNA戦でプロ初の「4番・二塁」として先発出場すると、4番初打席で左中間スタンドへリーグトップタイの19号ソロアーチを叩き込んでみせた。
子どもの頃の憧れは、ゴジラ松井ではなく巨人時代のマルちゃんことドミンゴ・マルティネス。お気に入りの映画はハリウッド大作ではなくインド映画の『きっと、うまくいく』。周りがどう思おうが関係ない。我が道を突き進む新世代のスタープレイヤーである。
7月の打撃成績は、9試合で32打数13安打の打率.406、5本塁打、10打点に3盗塁。夏場に向けてさらに調子を上げてきた山田だが、実は投手の映像を見るのがあまり好きではないという。ボールの軌道が映像で確認するのと、打席に立つのでは違って見えるからだ。
データよりも信じるのは己の嗅覚。その男、ナチュラル・ボーン・スラッガー。
今のヤクルトには畠山もバレンティンもミレッジもいない。でも大丈夫、だって山田哲人がいるのだから。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)