エース・岸の穴を埋めるサイドスロー!
大混戦のセ・リーグに対し、ソフトバンクが独走態勢に入りつつあるパ・リーグ。そうはさせじと食らいついているのが、日本ハムと西武だ。昨年5位に終わった西武は最低でもAクラス、もちろん、まだまだ優勝を狙う勢いである。
好調の打線に、6年目の菊池雄星が5勝4敗と左のエースとして台頭。岸孝之の穴を埋める先発右腕として、野上亮磨と十亀剣がともに7勝と、同い年が仲良く勝ち星をあげている。ちなみに、同い年といっても、高校→社会人を経てプロ7年目の野上に対し、高校→大学→社会人と経由した十亀は、まだ4年目である。
十亀剣は1987年11月生まれ、今年28歳。愛知県豊田市出身で、小学4年生から野球を始めた。中学時代は、硬式クラブ「豊田リトルシニア」でプレー。堂林翔太(現・広島)らも所属した強豪で、2012年には全国大会優勝。十亀も3年時に全国大会出場を果たしている。当時はオーバースローで、ストレートに自信を持っている投手だった。
中学卒業後は、イチロー(現・マーリンズ)らを輩出した全国屈指の強豪・愛工大名電高校(愛知)へ。十亀の2学年上には堂上剛裕(現・巨人)、1学年下には堂上直倫(現・中日)らがいた。
スピード自慢の十亀は1年夏に138キロをマークしたが、コントロールが定まらない。秋の新チームになると、監督にサイドスロー転向を命じられた。技巧派になるのかと抵抗はあったが、「サイドスローの速球派は希少価値がある。140キロ出してやる」と考え直したそう。同学年に右のオーバースローがいて背番号1は奪えなかったものの、二枚看板として3年春の甲子園優勝。決勝戦での登板はなかったが、相手の神村学園高校(鹿児島)のエースは、現在のチームメートである野上亮磨だった。
夏は激戦区・愛知県大会を勝ち抜いて甲子園出場を果たすも初戦敗退。秋のドラフトで、平田良介(大阪桐蔭高→中日)、岡田貴弘(=T-岡田/大阪・履正社高→オリックス)らが華々しく1位指名を受ける中、日本大学への進学を決めていた。
東都大学の名門・日本大だが、「戦国東都」と呼ばれる厳しいリーグで苦戦していた。十亀が在学中に1部リーグでやれたのは、1年春と秋、3年春と秋。1年春から登板したが、1部では0勝1敗。大学通算7勝は2部であげたもの。力投するもコントロールが悪く、プロのスカウトには「力任せに投げているだけ」と評された。
中継ぎ→先発→抑え→先発→故障……。今季は先発として確立!
大学卒業後、JR東日本に入社。まずは、社会人野球に慣れようとのんびり構えていたが、エースがいきなりの故障。そこで初めて、自覚が芽生えたという。エースに必要なのは安定感。調子が良くても悪くても気持ちを切らさず投げきる。そして、力まず力を抜いて投げること。実戦で結果を残しながら様々なことを学び、少しずつ成長していった。2年目の2011年、社会人の頂点である都市対抗野球で優勝。決勝戦の相手はNTT東日本。現在のチームメートである小石博孝(2011年ドラフト2位)と投げ合った。十亀は先に降板してしまったが、チームのサヨナラ勝ちで栄冠を手にした。
2011年秋のドラフトでは、西武が1位指名。菅野智之(東海大→日本ハム1位)、野村祐輔(明治大→広島1位)、藤岡貴裕(東洋大→ロッテ1位)という「大学BIG3」を捨てての単独1位指名。予想外の高評価に「心の準備ができていなくて、驚きの方が大きかったです」とコメント。「即戦力と期待されていると思うので、新人王を狙える成績を残さなくてはいけないと思っています」と続けた。
しかし、1年目の2012年は開幕一軍ならず、初登板は5月30日の広島戦。中継ぎとして起用され、6月24日のオリックス戦でプロ初勝利。1年目は41試合で6勝0敗。新人王には遠く及ばなかったが、勝率10割を記録した。2年目の2013年は先発となり、28試合で8勝8敗。4月21日の日本ハム戦でプロ初完封を記録した。
3年目の昨季は、当時の伊原春樹監督が抑えに指名。「初めてやるので勉強したい。押して引いてガンガンやります」と意気込んだ。しかし、チーム事情により、5月から先発に再転向。6月までに4勝5敗3セーブという数字を残したが、股関節の故障で離脱。3年目にしてプロ最低成績に終わり、チームも5位に沈んだ。
今季は開幕から先発として固定。滑り出しは苦しんだものの、4月21日の日本ハム戦で今季初勝利。勝ちがつかないこともあるし、もちろん負け試合もあるが、先発投手としての役割は十分に果たしている。実際、4勝目と5勝目の間は約1ヵ月あいてしまったが、「勝てない時期もありましたけど、試合自体は崩していなかった。いい形を続けていれば勝てると思っていました」と冷静に振り返る。先発として一番大事な「試合を作る」こと。それができているだけにチームの信頼は厚い。
これから夏以降に訪れるであろう、絶対に負けられない試合。そんな大舞台で、いい意味で力を抜いたピッチングができるか。4年目のサイドスロー・十亀剣が成長していく姿に注目したい。
文=平田美穂(ひらた・みほ)