40歳になるシーズンで2桁盗塁を記録
トリプルスリー。打者が同一シーズンにおいて「打率3割以上、30本塁打以上、30盗塁以上」の成績を記録することを言う。確実性と長打力に加え俊足も兼ね備えた万能型選手の証とも言えるが、今季はヤクルトの山田哲人とソフトバンクの柳田悠岐が達成する可能性が高い。NPBでは過去に8人しかいないトリプルスリーを最後に達成したのは、2002年の松井稼頭央(当時西武)である。
その松井にとって今季は記録ラッシュとなっている。4月11日のオリックス戦で史上54人目の3000塁打。同24日のロッテ戦では日米通算450盗塁。7月28日のソフトバンク戦でNPB通算2000安打を達成し、8月14日の日本ハム戦では史上12人目の通算400二塁打を達成。1755試合目での達成は歴代最速でもあった。
NPB史上でも屈指の万能型選手である松井。今季もすでに2桁本塁打(10本)、2桁盗塁(11盗塁)を記録している。なかでも目を引くのが盗塁だ。11盗塁という数字だけを見ると松井にしては物足りないが、今年10月で40歳になることを考えれば驚異的である。
NPBで通算300盗塁以上記録している選手は29人いるが、40歳になるシーズンでもプレーした選手は6人。そのうち盗塁を記録した選手は福本豊、広瀬叔功、呉昌征、石井琢朗の4人で、シーズン最多盗塁は福本6。通算1065盗塁の日本記録を誇る福本でも40歳になるシーズンでは6盗塁しかできなかったことを考えれば、松井の11盗塁という数字がいかに立派なものかがわかる。
プロ野球選手が自身の衰えを感じるのは動体視力や脚力とも言われ、松井も2013年に太ももを痛めたシーズンは1盗塁しかできなかった。そこから挽回し、2012年以来のシーズン2桁盗塁は称賛に値する。
盗塁成功率の高さも松井の特長
松井の11盗塁は楽天のなかで聖澤諒の14盗塁、後藤光尊の13盗塁に次いでチーム3位。昨季は盗塁を9回試みてすべて成功させるなど成功率の高さに定評のある松井だが、今季も盗塁を13回試みて失敗は2回、成功率は.846と高い。
今季10盗塁以上を記録している選手はセ・パ両リーグで21人。松井よりも成功率が高いのはヘルマン(オリックス)、岡大海(日本ハム)、山田哲人(ヤクルト)の3人だけだ。
「超機動力野球」を掲げ、積極的に盗塁を仕掛けている今季の楽天は、日本ハムの105盗塁に次いで多い92盗塁を記録している。「超機動力野球」がうまくいっているようにも見えるが、実のところ盗塁成功率は.642でパ・リーグ5位だ。
今季、松井が盗塁を決めたときのボールカウントは「初球」が5回、「1ボール」と「1ストライク」が2回ずつ、「1ボール1ストライク」と「2ストライク」が1回ずつ。すべて2球以内に盗塁を決めている。ベンチからのサインもあるだろうが、相手投手のモーションを早い段階から盗んで盗塁し、打者のカウントが悪くならないよう配慮もしている。
盗塁を決めるには、脚力はもちろんのこと観察力や瞬発力も必要だ。そのすべてを松井は兼ね備えていると言えるだろう。トレーニング方法などが進化し、以前と比べれば選手寿命が長くなったとはいえ、40歳になるシーズンでもまだ脚で魅せることができる松井は類稀な選手である。グラウンド狭しと駆け回る松井にこれからも期待したい。
※数字は8月23日現在
文=京都純典(みやこ・すみのり)