現役時代、打撃で魅せたふたりの新監督に集まる期待
日本シリーズ開幕を前に、敗退したチームにはすでに来季を見越した大きな動きが見られる。10月19日、阪神の新監督に就任した金本知憲氏が会見を開き、「結束力のある戦う集団を作る」と力強く宣言。2003年、2005年のリーグ優勝の立役者であるだけに、金本新監督への期待は大きいものがある。
また、DeNAはアレックス・ラミレス氏の新監督就任を決定。現役時代には外国人選手枠で入団した選手として史上初の2000安打を達成するなど、日本の野球を知り尽くしているラミレス監督にも金本監督同様に大きな期待が寄せられる。
ただ、もろ手を挙げて喜んでいるわけにはいかない。今季、ラミレス監督はオリックスの巡回アドバイザーを務めたが、プロの指導者としてほとんど実績はない。金本監督は、引退後、野球解説者として活動していた。という状況を踏まえ、ふたりにNPBでの本格的な指導経験がない点を懸念する声も少なくない。
2000年以降9人のうち、3人が1年目でリーグ優勝
ただ、ふたりと同じく、NPBでの指導者経験がないまま監督に就任した例は決して少なくない。2000年以降だけに限っても9人が該当する。ここで、彼らの1年目の成績を振り返ってみよう。
指導者未経験の新監督1年目の成績
【セ・リーグ】
・落合博満(中日/2004年)138試合79勝56敗3分 勝率585 1位
・牛島和彦(横浜/2005年)146試合69勝70敗7分 勝率.496 3位
・古田敦也(ヤクルト/2006年)146試合70勝73敗3分 勝率.490 3位
・野村謙二郎(広島/2010年)144試合58勝84敗2分 勝率.408 5位
・谷繁元信(中日/2014年) 144試合67勝73敗4分 勝率.479 4位
【パ・リーグ】
・大島康徳(日本ハム/2000年)135試合69勝65敗1分 勝率.515 3位
・田尾安志(楽天/2005年)136試合38勝97敗1分 勝率.281 6位
・栗山英樹(日本ハム/2012年)144試合74勝59敗11分 勝率.556 1位
・工藤公康(ソフトバンク/2015年) 143試合90勝49敗4分 勝率.647 1位
実際に数字を見てみると決して悪くない印象だ。9人のうち、今季のソフトバンク・工藤公康監督も含め3人が就任1年目でリーグ優勝を果たしており、平均順位はちょうど3位。合計勝率も.495と5割をわずかに割る程度だ。
もちろん、持ち合わせている戦力や故障者の発生の程度、そして、周りを固めるコーチらの手腕にも、シーズン成績は大きく左右される。しかし、監督自身の勝つためのビジョンが最も大きな影響力を持つことは変わらないだろう。
くしくも、金本監督が就任会見を開いた同日、巨人・原監督の退任会見が開かれ、勇退が正式に決定した。後任の候補のひとりに挙げられているのが江川卓氏だ。その江川氏にも指導者としての経験はない。また、今季は打撃兼任コーチを務めた高橋由伸氏も有力候補のひとりと報道されている。兼任でコーチを務めているとはいえ、高橋氏もまた本格的な指導者経験はない。
巨人の監督はまだ不明だが、もし仮に江川氏が巨人の新監督を務めることとなれば、来季のセ・リーグには、指導者未経験の新監督が3人同時に誕生することになる。果たして、未経験者だからこそ旋風を起こすことになるか、それともそれがあだとなるか。少し気は早いが、来季の開幕が楽しみである。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)