名将であり、球団のスーパースターがいなくなる...
秋の神宮球場で、巨人の2015年シーズンが終わった。
優勝チーム・ヤクルトとのCSファイナルステージ、初戦こそ坂本の逆転2ランで先勝したものの、その後3連敗。4試合でわずか6得点と今季を象徴するような貧打であっけなく終戦。敗退が決まったその夜に「原監督の辞任」が報じられた。
02年から03年、そして再び指揮を執った06年から15年と計12年間の監督生活で7度のリーグ優勝と3度の日本一を達成。第2回WBCでは侍ジャパンの監督として世界一にも輝いた。もはや21世紀最高の実績を残した名将といっても過言ではないだろう。
選手時代も含めて巨人一筋の野球人生。王貞治が現役引退した直後に巨人入りし、長嶋茂雄から巨人監督を継承した。いわば天下のONを背負い続けた男だ。
長い球界の歴史で、3割・30本塁打を記録しながらも「勝負弱い」と周囲から叩かれた選手は他にいないだろう。それでも、チームの顔として自らその役割を引き受け、マスコミやファンを巻き込み熱狂を生み出していく。原辰徳はいわば古き良き「昭和のプロ野球」を体現した最後の監督ではないだろうか。
セ・リーグでは今オフに阪神・金本知憲(47)、DeNAのアレックス・ラミレス(41)と続々と若い新監督が誕生している。他球団を見てもヤクルトの真中満(44)、広島・緒方孝市(46)、中日・谷繁元信(44)と全員40代だ。57歳のスター監督・原辰徳の辞任は、ひとつの時代の終焉を痛感させる。
数々の栄光をもたらした原監督だが、やり残したことも当然ある。最後まで原辰徳を超えるようなスラッガーを育て上げることは出来なかった。皮肉なことに、現役時代に巨人の4番を張り続けた男が、4番不在に悩まされて優勝を逃し、ユニフォームを脱ぐ。
何度優勝しても、スポーツ紙を飾るのは「原巨人」の見出し。もしもチームに新世代のスター選手が出現したら、監督ではなく選手に注目が集まるはずだ。今年のソフトバンクとヤクルトによる日本シリーズが、両監督よりも柳田悠岐と山田哲人の“トリプルスリー対決”が話題になっているように。
後任監督候補には江川卓氏、川相昌弘ヘッドコーチや斎藤雅樹投手コーチの名前などが挙がっているが、今の多くの主力選手たち、そして若い巨人ファンも「原辰徳のいない巨人軍」を体験したことがない。
名監督と同時に、“巨人のスーパースター”原もいなくなる。
これから待ち受ける「原巨人」ではない、ただの巨人軍…。いったいどんなチームに変わっていくのだろうか?
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)