気になる巨人の補強事情
巨人が静かだ。
ここ数年、FA戦線の主役を張ってきたジャイアンツ。11年オフは杉内俊哉・村田修一、13年オフは片岡治大・大竹寛、そして昨オフも相川亮二・金城龍彦を獲得した。
93年に日本球界にFA制度が誕生してから22年、これまで12球団最多の19名の選手をFAにより獲得。それが今季は脇谷亮太(西武)にアプローチしたのみ。脇谷は推定年俸2400万円と各補償なしのCランクFA選手。高橋新監督の現役時代に沖縄自主トレをともにしており、すでに1回目の交渉で「背番号2」を提示し3年ぶりの凱旋復帰は決定的だ。
引退した由伸の左の代打枠、同じく内野守備走塁コーチに転身した井端の内野バックアッパー枠をカバーできるベテラン脇谷の加入が実現すればV奪回を目指すチームにとっても大きい。
そして、27日に保留者名簿から外れて話題になっているのはロッテのルイス・クルーズ内野手だ。
同日に巨人が公式ページの通訳募集で「スペイン語が堪能な方や通訳経験者は優遇」と明記。当然、ファンはスペイン語圏のメキシコ出身クルーズを迎え入れる準備かと盛り上がる。
と言っても、冷静に見てしまえば今いる選手のアンダーソンとメンドーサがキューバ。さらに育成契約のアブレイユとペレスがドミニカと助っ人の半数以上がスペイン語圏出身選手になる。来季は三軍も創設され、スペイン語も堪能なスタッフの人手が必要というチーム事情もあるだろう。
クルーズの今季成績は133試合、打率.255、16本、73打点、OPSは.691。その華麗な二塁守備に加え、ショートも守れ、メジャー時代には三塁手としての実績もある。推定年俸8500万円でまだ31歳。2年連続で出塁率2割台と粗い打撃は気になるが、意外性の一発もあり好選手なのは間違いない。
今の巨人の問題点のひとつは、坂本勇人と片岡治大のどちらかがスタメンから落ちると途端にチーム力がダウンすることだ。
坂本はチームトップの17勝利打点、片岡は自身5年ぶりの二桁本塁打に21盗塁と存在感を発揮。今季のNPBで「2ケタ本塁打・20盗塁以上」をクリアしたのは山田哲人・柳田悠岐・梶谷隆幸、そして片岡のたった4名。この攻撃面に加えて片岡と坂本がコンビを組む二遊間の守備範囲の広さは巨人の代えが効かないストロングポイントとして機能していた。
復帰濃厚な脇谷は西武で一塁90試合、三塁10試合、外野28試合と今季は一軍で1度もセカンドとショートを守っていない。だが、この問題もクルーズを獲得すれば一気に解決できるだろう。
坂本と片岡(さらに村田)の刺激となり、故障時には代役も務められる。巨人の弱点でもある「二遊間の層の薄さ」を埋められる男・クルーズ。あくまで4番を打てる大砲タイプの助っ人補強にこだわるのか、編成の決断にも注目だ。
この時期、スポーツ各紙やタブロイド紙で報じられる移籍ネタのほとんどは実現しないまま終わる。だが、野球ファンにとってストーブリーグとは行間を楽しむものである。結果がすべての試合レポートとは違い自由度が高い。「調査中」の文字の裏に隠されたチーム事情を想像するだけで数時間は議論できる。
巨人のルイス・クルーズ獲得。多分ない。けど絶対ないとは言い切れない。それがストーブリーグの魅力であり怖さである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)