プレミア12では高視聴率を記録
2015年も残りあとわずか。振り返ると今シーズンのプロ野球界の象徴は名実ともに山田哲人(ヤクルト)と柳田悠岐(ソフトバンク)だった。「トリプルスリー」は「2015ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞を受賞。プロ野球界からは99年の「リベンジ」と「雑草魂」以来、16年ぶりの選出だ。しかし、山田と柳田のトリプルスリー対決と呼ばれた日本シリーズ第1戦の関東地区平均視聴率は9.3%。ソフトバンクが日本一を決めた第5戦は12/3%。この数字に巷では野球人気の低下が囁かれた。
だが、そんな声も日本シリーズ後に開催された世界野球WBSCプレミア12で覆されることになる。開幕前は「プレミア12って何?」状態だった世の中も、蓋を開ければ毎試合高視聴率を記録。初戦の韓国戦19.0%から始まり、メキシコ戦15.3%、ドミニカ戦15.4%、アメリカ戦18.2%、ベネズエラ戦20.0%、プエルトリコ戦18.6%。そして、迎えた準決勝は日本対韓国戦。3点リードで迎えた9回表、一気に4点をもぎ取られまさかの逆転負け。大谷翔平の快投の余韻も一瞬で消え、ベンチの小久保監督も痛恨の継投ミスに唖然茫然。皮肉にも夜7時からTBS系列で放送されたこの一戦は関東地区で視聴率25.2%を記録。瞬間最高視聴率は32.2%にまで達した。
高視聴率のひとつの要因は日程の妙だろう。初戦に「日韓戦」というキラーコンテンツを持ってきて視聴者を掴み、一気にライトユーザーを取り込む。プレミア12でもWBCでも、さらに言えば甲子園でも、ついでにテレビドラマでも第1話を観たらその後も観る。野球もサッカーも日韓戦は一種の祭りである。とりあえず、普段はこのジャンルに興味がないお客さんも盛り上がりそうだから参加するっていうか視聴する。要はハロウィンと構図は同じだ。2015年の今こそ「みんなで楽しめる」というのは重要なファクターだと思う。TwitterやインスタグラムやFacebookで、世界と「今」を共有できるコンテンツか?というのはすべてのエンターテインメントにとって生命線なのである。
そして、もうひとつ無視できないのが「巨人戦難民」のオヤジたちの存在だ。昭和の時代に仕事から帰ってビール片手にONや原辰徳に声援を送っていた世代。ミスターが監督辞任したあたりから徐々に巨人への興味が薄れ、10年前にG戦地上波中継が激減しなんとなくサヨウナラ。かと言って、野球が嫌いになったわけじゃない。だって、ガキの頃から長嶋や王を何十年と見続けてきたわけだから。11月12日に放送されたサッカーW杯アジア2次予選 日本✕シンガポール戦は、同時間帯に生中継されたプレミア12日本戦視聴率を2.2%下回った。これぞ昭和90年のお茶の間の反逆。オヤジ達の意地を見た。
かつてJリーグは「地域密着」を掲げ、NPBのパリーグもそれに追随した。日本シリーズもソフトバンクの地元九州地区では30%越えの視聴率を記録。で、侍ジャパンは一言で言えば「ニッポン密着」だ。日本列島そのものがホームタウン。プレミア12高視聴率の要因は4つ。「連続ドラマ感」「お祭りムード」「地上波中継」「ニッポン密着」だろう。これらの要素がひとつも欠けることなくがっちりスクラムを組んでご家庭まで野球を押し込んだ。
斜陽化が叫ばれて久しい両ジャンル。でも、野球もテレビもまだ死んじゃいない。それが分かっただけでも、プレミア12に参加した意味はあったと思う。例え視聴率に勝って、勝負に負けたとしても。
2016年、プロ野球とテレビの関係性はどう変化していくのだろうか?
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)