完封勝利目前で敗戦投手となった能見
4月1日のDeNA対阪神。9回裏のマウンドに上がった能見篤史の初球は、筒香嘉智(DeNA)にとらえられ、バックスクリーン左に飛び込む痛恨の同点弾となった。その後、二死一、二塁とピンチを招いたところでその能見は降板。代わった歳内宏明が、下園辰哉にサヨナラ打を浴び、能見は8回まで無失点の好投を披露しながら敗戦投手となった。
能見が8回までに投じたのは106球。十分に完封を狙えるペースではあったが、5月には37歳になる年齢の影響か、近年、好投を続けていても試合後半に崩れるケースも目立っている。さらに、直前の8回には芯で打球をとらえられ始め、得点圏にランナーを進められた。本来なら、9回から守護神・マテオを投入してもいい場面だが、そうできない事情があった。
5時間を超える熱戦の末に引き分けとなった前日3月31日のヤクルト戦、そのマテオは、クローザーとしては異例の3回61球を投じていたからだ。それだけでなく、開幕2戦目に完投を目指しながら6回で降板した能見の悔しさを考慮した部分もあっただろう。
はたから見て、金本阪神の投手起用を引っ張り過ぎだと批判することは簡単だ。もちろん、その意見にも一理あるだろう。しかし、その采配が逆に転ぶことだって考えられる。
今季の大きなポイントになりそうな継投策
3月29日のヤクルト戦では、先発・藤浪晋太郎が149球を投じている。もともと球数が多いタイプではあるが、昨季、自身最多だった152球(7月24日DeNA戦)に迫る数字を、今季初戦で記録してしまった。
この試合、8回表は藤浪の打順から始まった。打席に入ったのは代打の打者ではなく藤浪だ。ペナントの行方を決するシーズン終盤ならともかく、藤浪の続投に疑問符が浮かんだファンも少なくなかったはず。
間違いなく、将来の阪神を背負っていくのは藤浪だ。だからこそ、大事に使ってほしいというファンの気持ちも理解できる。しかし、「お前がやらなきゃ誰がやる!」という金本知憲監督からのメッセージを受け取った藤浪が、シーズンを通してチームをグイグイと引っ張っていく可能性だって十分にあり得る。「中継ぎの投手を休ませたい」。藤浪自身、そんな言葉を過去に何度も口にしている。
ほかの先発ローテの投手も同様だろう。責任感が強い能見はもちろん、昨季、防御率3.22とまずまずの数字を残しながら、7月以降は3勝に終わり、今季こそと意気込む岩田稔や、開幕投手に自ら志願するほど積極的な優良助っ人・メッセンジャー。
重傷を負いながらもグラウンドに立ち続けた鉄人・金本知憲をチームメートとして目の当たりにしてきた彼らなら、結果はともかく、金本監督の心意気に応えようと奮起することは間違いない。
男気ある金本采配が、チームの士気を上げ勝利につながるか、あるいは……。2016年の阪神の命運を左右する大きなポイントになるだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)