社会人出身ならではの経験と落ち着きを買われ楽天入り
5月18日のオリックス戦だった。楽天不動の正捕手であり、チームの精神的支柱でもある嶋基宏が左手首にファウルチップを受け途中交代し、戦線離脱を余儀なくされた。
以来、扇の要を懸命に務めるのは26歳のオールドルーキー・足立祐一だ。足立は、東京都町田市の出身。町田ライオンズで軟式野球をはじめ、小山田中学から桜美林高校に進学。2年夏に正捕手の座をつかむと、同年秋には主将で4番というチームの中心として東京都大会準優勝に大きく貢献した。しかし、甲子園出場経験はないまま卒業し、神奈川大学に進学。大学では2年春から正捕手の座を射止め、同年秋の神奈川大学野球秋季リーグで防御率0点台の投手陣を率いて全勝優勝。ベストナインも通算3度受賞した。
神奈川大学卒業後はパナソニックに入社。3年目の2014年に正捕手となると、JABA長野大会では決勝の西濃運輸戦で勝ち越し本塁打を放ちMVPに選出された。翌2015年にはJABA岡山大会で2本塁打を記録し優勝。再びMVPに輝いている。同年9月には社会人日本代表も経験。BFAアジア選手権に出場し、3位という結果を残した。
遠回りしたプロ入りだったが、楽天スカウトは経験力の高さを評価。社会人出身ならではの経験や落ち着きを買われ、2015年ドラフト6位で楽天入りを果たした。
妻子を残し1年目から並々ならぬ決意で臨む!
妻子がありながら、単身で泉犬鷲寮に入寮した足立。1年目から「今年が勝負の年」と語るのは、その年齢ゆえだ。コメントも初々しさとはかけ離れた、新人らしからぬ固い決意がチャンスを呼び寄せた。
とはいえ、嶋の故障により巡ってきたスタメンマスクはずしりと重かったに違いない。準備も万全とはいえなかっただろう。一軍投手はほとんどがバッテリーを組んだ経験がない選手ばかり。事実、デビュー直後はサインが合わない場面も見られた。
5月21日の日本ハム戦でのデビュー以来5連敗。最悪の結果ではじまった足立のプロ人生だが、その後はくっきりと上昇線を描いている。投手とまめに意見を交わし、体を張った捕球や、持ち味の強肩を生かした盗塁阻止で投手をもり立てている。リード面も含め、投手陣の信頼を着実に勝ち得ている。
足立の一軍昇格時には最下位に沈んでいたチームも、直後にはじまった交流戦では11勝7敗で4位。そのうち、足立がスタメンマスクをかぶった試合では10勝5敗と、上々の結果を残し、リーグ順位でもオリックスを抜き去り5位に浮上した。
6月24日からはリーグ戦が再開した。これまで足立がスタメン出場したパ球団との試合では、“デビュー5連敗”を含めて2勝7敗。後半戦には嶋も復帰してくる。ここまでの一軍での経験を生かし、進化した姿を見せつけられるか。足立の本当の勝負がはじまるのはこれからだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)