進化が止まらない球界の星
「秋田シリーズは山田哲人のためにあるのか」とすら思えた週末の巨人戦での決勝アーチだった。
今季は3番打者として開幕すると、6月14日のソフトバンク戦から「4番・二塁」として定着。打撃各部門でトップを走り、OPSは驚異の1.173を記録。『出塁率+長打率』で算出するOPSは総合的な打力を示す指標として知られるが、昨季のセ・リーグ平均OPSは.674というから、この男の図抜けた凄さがよく分かる。
山田といえば、2010年のドラフト会議で「外れ外れ1位選手」としてヤクルトとオリックスが競合。いまやセ・リーグを代表するスーパースターへと登り詰めた背番号1だが、もしもこの時、オリックスが交渉権を獲得していたら……。今以上にスター選手がパ・リーグに一極集中してしまっていただろう。
いわば、山田哲人はセ界を救った男なのである。
スラッガーたちの「高卒6年目」
怒濤の勢いで進化を続ける球界の“スペシャルワン”――。
今回は、今季の山田と同じ、近年の「高卒6年目スラッガー」の成績を見てみよう。
・清原和博(西武/91年)
126試 率.270 本23 点79 盗3 OPS.858
・江藤智(広島/94年)
105試 率.321 本28 点81 盗7 OPS1.008
・イチロー(オリックス/97年)
135試 率.345 本17 点91 盗39 OPS.933
※首位打者、最多安打
・松井秀喜(巨人/98年)
135試 率.292 本34 点100 盗3 OPS.984
※本塁打王、打点王、最高出塁率
・松井稼頭央(西武/99年)
135試 率.330 本15 点67 盗32 OPS.872
※盗塁王
・岩村明憲(ヤクルト/02年)
140試 率.320 本23 点71 盗5 OPS.921
・坂本勇人(巨人/12年)
144試 打率.311 本14 点69 盗16 OPS.815
※最多安打
・中田翔(日本ハム/13年)
108試 打率.305 本28 点73 盗1 OPS.932
・筒香嘉智(DeNA/15年)
138試 打率.317 本24 点93 盗0 OPS.922
・山田哲人(ヤクルト/16年)
80試 打率.344 本28 点68 盗17 OPS1.173
※チーム80試合終了時
厳密に言えば、イチローや松井稼、坂本といったところはスラッガータイプではなく中距離打者であるが、それぞれキャリア6年目に3割を越える打率と2ケタ本塁打を記録。打撃タイトルも獲得している。
タイトルとは無縁だった清原も、6年目終了時までに通算186本塁打を放ち、翌年に24歳10カ月で最年少200号本塁打を達成することになるが、6年目のシーズンですでに成績は下降気味。結局、ルーキー時代の輝きを取り戻すことはなかった。
そして、のちに巨人に移籍した清原とクリーンナップを組む松井秀喜は、6年目に自身初の本塁打王と打点王を獲得している。
山田哲人は今年、伝説になる...?
こうして見ると、やはり最年少三冠王へと突き進む6年目の山田哲人の成績は図抜けている。
長い球史において、この男と唯一比較できるとしたら……。それは「6年目の王貞治」ではないだろうか。
・王貞治(巨人/64年)
140試 率.320 本55 点119 OPS1.176
この年、24歳の王は初の50本をクリア。当時の日本記録となる55本塁打を放った。
「1964年の王貞治」が今も伝説として度々話題に上がるように、「2016年の山田哲人」も50年後の野球ファンの間でひとつの偉大なる歴史として語り継がれることだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)