白球つれづれ~第15回・オールスター~
参院選の開票速報も終盤を迎えていた深夜1時過ぎのこと。睡魔と戦いながらテレビのチャンネルをあちこち変えていると、野球党には何とも興味深い番組に巡り合った。テレビ朝日系列で放送された「GET SPORTS」の中の球宴企画だ。時間が時間だけに視聴されたファンも少ないと思われるので少し紹介したい。
日本ハムの大谷翔平が今季のベストピッチを映像で振り返るのだが、交流戦の対阪神で西岡に投じた162キロは見逃しストライク、続いてゴメスも同じく162キロで空振り。さてどちらが会心の1球だったか? 二択を評論家の古田敦也、稲葉篤紀、前田智徳の三氏が予想するのだが、大谷の出した答えは前者。共にストレートを狙ってくる場面で手も出ない投球が出来たのが嬉しかったという。(ちなみに正解は前田氏のみだった)
巨人・菅野智之ならスライダーとストレートで二択。打者編ならヤクルト・山田哲人とソフトバンク・柳田悠岐のそれぞれ2本のアーチを紹介してこれも納得の一発はどちらか?に迫る。
これらの映像を見ていて心が動かされたのはプロの中でも最高に乗っている若きスーパースターが自らの口でベストなプレーを選択し、工夫や狙いを語っているからだろう。これぞプロの技。やはり誰にも真似のできない「異能」こそプロフェッショナルの魅力である。
赤い忍者
今週の15、16日にいよいよオールスターゲームが開催される。上記の4選手以外にも異能な男はいる。広島の菊池涼介。セリーグの首位をひた走る赤ヘル軍団の原動力の一人だが、別名は「赤い忍者」。何せその守備能力は半端じゃない。
菊池を全国区に押し上げたのは2014年に樹立した二塁手としての捕殺535という日本最高記録だろう。ちなみにパ・リーグ記録が田中賢介の473(2010年)だからどれだけ突出した記録かわかる。守備範囲が広いうえに肩も強くなければこの数字には届かない。
さらにこの年の秋には米大リーグの関係者も驚く異能ぶりを発揮する。日米野球の初戦からメジャーの中軸打者・ゾブリストの右前に抜けるかという打球に横っ飛びで追いつき、完璧な一塁送球。このシリーズでは中前に抜けそうな打球も軽々と処理すると、バックトスで併殺まで完成させている。まさに忍者のようなスーパープレーの連続にメジャーの公式サイトが二度にわたり「離れ業を見せた。今すぐメジャーでも通用する」と紹介したほどだ。
至極の技の源は強靭な足腰に加え、守備位置の深さにある。通常の二塁手に比べて2~3メートルは外野よりに守る。ランナーがいない場面では外野の芝生にも入り込んでいる。加えて名人ならではの動物的な勘まで加わる感覚派だから相手チームにとっては何とも始末に負えない。
異能者による祭典
最近の球宴は面白みがないという声も聞く。かつては人気のセに対して実力のパという対決の図式がはっきりしていた。人気で劣るパ・リーグの猛者たちは全国中継の行われるここぞとばかりに目の色を変えて挑んだ。ベンチにもピリピリした勝負への空気が満ちていたものだ。
しかし、近年は真剣勝負というより和やかなお祭りムード。交流戦が行われるようになって両リーグのスター対決も見慣れた光景になった部分もある。全員を公平に起用するから、かつての江夏豊の9連続奪三振のような夢の記録も生まれない。となれば、なおさら「異能の男たち」の夢のようなプレーが見たい。
昨年、全セの監督だった原辰徳は監督推薦で走塁のスペシャリストである鈴木尚広を選出した。プロ19年目、37歳での初選出だった。三冠街道を驀進する山田哲人の打棒も、160キロ台の快速球を投じる大谷翔平の剛腕ももちろん見たい。だが、そんな球宴に一味違うスパイスを提供できるのは菊池のような超人的なプレーだろう。もうひとり加えるならロッテ・角中勝也。チーム内でも有名な悪球打ちでいて、首位打者レースを快走している。こちらも立派な異能選手である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)