白球つれづれ~第16回・千葉ロッテマリーンズ~
夢の球宴・オールスターでは、日本ハムの大谷翔平がスターの中のスターであることを改めて証明した。
投手としてのファン投票選出も、中指の故障で打者専念。それでも第1戦のホームラン競争では山田哲人(ヤクルト)、柳田悠岐(ソフトバンク)ら並みいる強打者を抑えて優勝。さらに第2戦ではMVPまで獲得とは恐れ入るしかない。
その球宴直前に、セ・パ両リーグから興味深い数字が発表された。前半戦の各球団の観客動員数だ。
主催試合数が一律でないため、総数より1試合平均の方が実態に近いのでこれを参考にする。トップは、やはりというべきか巨人の4万2630人。阪神、ソフトバンクがこれに続くのもまあ予想通りか。
そして最も少ないのはロッテで同2万1109人。ところが、前年比の伸び率で見ると、このロッテが23.2%で12球団断トツのトップに躍り出る。2位はヤクルトの13.2%で、最下位はソフトバンクのマイナス1.2%。それ以外の11球団は、前年を上回っている。野球人気の低下が騒がれて久しいが、ことプロの興行としては胸をなでおろす数字だろう。
12球団随一の応援
ロッテの意外な健闘(?)を実感する機会があった。
7月12日に、本拠地のQVCマリンではなく東京ドームで開催されたソフトバンク戦。今年が千葉移転とマリーンズ命名の25周年にあたるところから企画された特別イベントであった。
試合直前には満員札止めの告知があったが、入場者は4万4411人。スタンドの9割近くをロッテファンが埋め尽くし、球団の観客動員記録を大幅に塗り替えた。
ロッテの応援の迫力は12球団でも群を抜いている。熱狂度では阪神が上かも知れないが、統率のとれた一体感はドームという室内空間も手伝って日頃の倍以上。ある球場関係者は「今日の応援の迫力は間違いなく巨人戦以上」と舌を巻いた。
これだけの熱狂を目の当たりにして、かつてのロッテ担当の記者としては感慨に耽るしかなかった。まだロッテオリオンズだった70年から80年代。川崎球場を本拠地としていたころは、“不人気球団”のレッテルを貼られていた。
低迷期には、スタンドのファンを数えると200人足らずという日も珍しくはなかったほど。これに年間指定席を購入していた分を足して3000人くらいの入場発表がなされていた。球団の身売りが年中行事のように騒がれたのもこの頃だ。
劇的な環境の変化は92年に訪れる。千葉へのフランチャイズ移転を機に、球団名も「マリーンズ」と一新された。
当初は苦戦続きでチーム力は今一歩だったが、先に注目を集めたのは斬新な応援だ。従来のトランペットと太鼓主導の繰り返しから、サッカーのサポーターを参考にした一糸乱れぬ大迫力の応援は野球界のスタンドの空気まで変えていった。
2002年には、このファンに対して「毎日スポーツ文化人賞」が贈られる。当時の選考委員だった作詞家の阿久悠(故人)は野球通でもあったが、従来の概念を打ち破るロッテの応援に感心して「ぜひとも彼らにこの賞を」と強く推薦して贈賞にこぎつけたものだ。
営業部門の努力
ファンが熱気を呼び込み、それに呼応する形でチームも強化されていった。
営業部門も、春休みやゴールデンウィークに合わせてイベントを開催し、「マリンフェスタ2016」や「ALL FOR CHIBA」といった恒例の企画に加え、千葉移転25周年を記念した「MARINES 25」など、様々なイベントを企画。そこにロッテ本社の協力も加わり、アイスクリームの10万個無料配布などで全面バックアップ。チームを取り巻く環境を活性化させている。
目下、チームは球宴直前から下降カーブをたどり、ここに来て正念場を迎えているが、「去年、クライマックスシリーズで敗れた悔しさはみんなが持っている。今年は何としてもそれを打ち破っていきたい」と伊東勤監督の闘志は衰えていない。
観客動員は、チームが強くてこそ伸びていく。驚異の伸び率20%台が秋まで継続されれば、ファンのボルテージも今以上に上がっていくはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)