メジャーでも35歳のベテランが盗塁王
オリックスの糸井嘉男がFA権を行使するかどうかがオフの大きな注目の一つになっている。糸井といえば三拍子そろった球界屈指の外野手として知られ、今季は35歳にして初の盗塁王に輝くなど衰える気配を全く見せていない。今季成功させた盗塁の数は実に53。2013年にマークしたそれまでの自己最多(33盗塁)を20も上回った。
海の向こう、メジャーリーグでも同じく35歳のベテランがア・リーグ盗塁王に輝いた。インディアンスのラージェイ・デービスである。デービスは今季495打席に終わり、わずかに規定打席に到達しなかったが、2位に13差の43盗塁をマークし、自身初のタイトルを獲得した。
“アラフォー”ながら、多くの若い選手に交じってこれだけの盗塁を成功させることはにわかに信じがたい。しかし過去には糸井やデービスよりも高齢でより多くの盗塁を成功させた選手もいる。
リッキー・ヘンダーソンは39歳で盗塁王
メジャーリーグ史で盗塁といえば、この男を抜きには語れない。リッキー・ヘンダーソンは、1979年から2003年まで25シーズンにわたって9つもの球団でプレーした。「The Man of Steal(盗塁の男)」という異名を持ち、引退までに1406もの盗塁を積み重ねた。長いメジャーの歴史上でも4桁の盗塁を決めた選手はヘンダーソンのみ。単純に計算しても70盗塁を20年間続けなければならない偉業である。
盗塁の男は、35歳で迎えた1994年に、87試合で22盗塁に終わった。しかし4年後の98年には66盗塁をマークし、39歳にして自身最後の盗塁王に輝いている。ヘンダーソンが35歳以降に記録した盗塁だけで311にも上る。プロ野球の現役選手が通算でこれを上回るのは、松井稼頭央(楽天、464)、荒木雅博(中日、373)、本多雄一(ソフトバンク、334)、片岡治大(巨人、320)の4人だけだ。(※松井は日米通算)
日本の元祖・盗塁王は福本豊
一方、プロ野球界の元祖・盗塁王といえば、阪急一筋で活躍した福本豊しかいないだろう。通算盗塁数は1065。日本球界で4桁に到達したのは福本のみである。福本は社会人を経てプロ入りし、2年目に75盗塁で初タイトルを獲得すると、ヘンダーソン(12度)を上回る13度の盗塁王に輝いた。しかし年齢には勝てず、35歳で迎えたシーズン(1983年)以降は6シーズンで合計146盗塁に終わった。
ヘンダーソンや福本が活躍していた時代に比べ、現代野球はクイックモーションの向上などが著しく、盗塁の価値を単純に比較するべきではないだろう。だからこそ糸井やデービスが35歳にして盗塁王に輝いたことは偉業といえる。現代野球では盗塁は統計的にもリスクが大きく、過大評価されがちだが、盗塁を恐れる野球に果たして魅力はあるのだろうか。体格面から長距離砲が育ちにくいプロ野球界だからこそ、新たな走れる選手の登場に期待してしまう。
文=八木遊(やぎ・ゆう)