「栄枯盛衰は世の習い」。リーグ優勝計9回を数える球団の歴史の中で、落合博満監督が率いた2004から2011シーズンの間に数えた優勝回数は4回。70年以上の球団史の中で、その一時代はまさに「黄金期」。しかし、かつての栄光は過ぎ去り、今ドラゴンズは長く暗いトンネルの途中で光を求めて歩みを進めている。今季こそ、3年間続いたBクラスに歯止めをかけ、復活の狼煙を上げたい。

　しかし、そこにはかつての黄金期を知るベテランの姿は多くない。ニュージェネレーション達の台頭こそが急務であり、激しいチーム内競争こそが、飛躍の鍵を握るのかもしれない。

　そんな中、今の中日の不屈の闘志を象徴するような一人の男がいる。亀沢恭平、27歳。若手の育成を大きな柱に掲げた四国アイランドリーグの香川を経て、育成選手としてホークスに入団。育成選手は3年で支配下登録されなければ育成選手保留者名簿から外れるが、亀沢はその勝負の3年間で支配下昇格を果たすには至らなかった。

　ソフトバンク時代、亀沢は「このチームで支配下登録されるのは難しいと思うけど、僕は絶対に諦めない。今までも諦めなかったからこそ、次の舞台に立てたと思っている」と語っていたという。そんな彼を野球の神様が見放すはずもなく、中日が支配下登録を視野に入れた秋季キャンプへの参加を打診。そこから彼の道は切り開かれていった。

　デビュー戦は鮮烈で、中日で開幕一軍を勝ち取った亀沢は昨年3月の阪神戦でいきなり4安打と爆発してみせる。「あの日の4安打は出来過ぎ。無我夢中だった。あんな緊張は初めて」と話した亀沢だが、その後もコンスタントに出場を続け、1度も一軍から抹消されることは無かった。

　迎える今季。亀沢にかかる期待は大きい。彼はそんなプレッシャーとも新たに向き合っていく必要がある。勝つことが至上命題のプロの世界において、重責の中で「結果」を残す苦しみと向き合う。ましてや、今の中日は百戦錬磨のベテランに支えられるチームでではない。亀沢はじめ、若手から中堅選手たちが新たな歴史を築き上げていく必要に迫られているのだ。

　チームの盛り上げ役も担う亀沢。チームスポーツでは時に、たった一人の熱い気持ちやプレーがチームを動かし、大きなうねりに変わる。決してエリートとは言えない生き様こそが、今のドラゴンズの魂だ。