強力ヤクルト打線を育てた名伯楽
ここまですごいと、もう不思議としかいいようがない。いや、驚愕するしかない。ヤクルト打線のことだ。
他のチームから移籍した選手も、ヤクルトに入団すると生き返る。たとえば、坂口智隆外野手。プロ14年目で、昨季まで所属していたオリックスでは、2013年が打率.230、14年が.235、そして昨季が.262。それが、今季は4月26日現在で、打率.314。完全に復活した。いったい、どうなっているのだろう。
思い当たるのは、一人のコーチの存在。杉村繁一軍チーフ打撃コーチだ。
ヤクルト生え抜きの内野手として、11年間プレー。選手としては代打要員、守備固め要員などが主な役割で、それほどの活躍はできなかったが、コーチになるとその手腕を発揮。数々の名選手を育て上げた。
14年からヤクルトの一軍打撃コーチに就任。すると、前年の13年には.253でセ・リーグ4位だったチーム打率を改善。14年は.279、15年は.257とリーグトップにまで押し上げたのだ。
中でも、現在中軸を張る山田哲人や川端慎吾らを日本を代表する打者に育て上げた手腕は高く評価されている。
選手に合わせた指導スタイル
山田は、大阪・履正社高校の出身。開花の兆しを見せる“期待の若手”だった頃に杉村打撃コーチと出会い、その才能が爆発した。
杉村繁の打撃理論。一番の特長は、選手一人一人によって指導法を変えるというもの。一貫性がないとか統一感がない、不公平だ、などの批判を浴びそうだが、逆に言えば、全ての選手を同じように指導した方がいいのか。答えはノーだろう。
山田には、“センター返し”を指導したという。力強さはもともとあったものの、バッティングはまだまだ粗削りだった。そこで、ティーバッティングでは逆方向への意識を徹底。すると、センター中心の打撃から、逆方向へのヒットが打てるようになった。それが後のヒット量産へとつながっていく。
山田だけでなく、現在メジャーで活躍する青木宣親も、杉村コーチの門下生の一人だ。その青木には、「強く振れ」ということを指示したという。元々メンタルが弱く、調子を落とすと当てるだけの打撃になるクセがあった青木。それを矯正すべく、とにかく振り切ることを意識させた。この独特とも言える指導法で、選手が成長するのだろう。
ちなみに、今季のヤクルト打撃陣の打率(4月26日現在)を見ると、山田が打率.344、川端が.321、雄平が.307、坂口が.314と、規定打席到達者で4人が3割を超えている。チーム打率はリーグトップの.282だ。
昨年は“セ界の火薬庫”と呼ばれて恐れられたヤクルト打線。今年も猛威を振るい、リーグを盛り上げてくれそうだ。
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