16歳でマリナーズと契約を結んだヘルナンデス
ア・リーグ西地区、シアトル・マリナーズのエース、フェリックス・ヘルナンデス。マリナーズと契約したのは16歳のとき。日本なら高校1年生ということになるのだが、中学生時の14歳で、すでに145キロの速球を投げていたというから驚く。
2005年に19歳という若さで、メジャーデビューを果たした。イチローが、その前年にシーズン安打記録を塗り替えるなど全盛期を迎えたころ、ヘルナンデスはルーキーだった。
「10年に1人の逸材で、将来のエース候補」と呼ばれた。190センチの長身からスリークォーター気味に投げ下ろす速球の威力は、たしかにすごかった。だが、テレビに映る姿は「悪童」そのもの。その態度は、ふてぶてしさを感じるほどだった。
自らのピッチングに自信を持っているがゆえに、バッテリーを組む捕手と“けんか”することも多かった。かつて、マリナーズに在籍した城島健司捕手とは、サインで息が合わずに、マウンド上で意見交換する姿がよくあった。
変化球でかわしたい城島と速球でおしたいヘルナンデス…。そして、しばらく、この2人はバッテリーを組まなくなった。もっとも、10代のころからメジャーで投げている投手は、そのくらい気が強くないとやっていけないところもあるだろう。自分の投げるボールは打たれないという自信が、ヘルナンデスにはあるということだ。
キングの愛称で親しまれるヘルナンデス
日本のサッカー界では、「キング」といえば、カズこと三浦知良。ただ、カズは「キングと呼ばれることは、正直、おこがましい。サッカー界でのキングはペレさんとか、他にいるでしょう」と謙虚。一方、ヘルナンデスはキングと呼ばれていることを楽しんでいるようだ。
そんなキングが、12年8月15日に、とてつもない記録を打ち立てた。ホームで行われたレイズ戦に先発すると、序盤から速球で打者を圧倒。そして、9回の最後の打者を三振に打ち取り、メジャー史上23人目の完全試合を成し遂げたのだ。
「いつでも、完全試合を狙っている。今日は、それを達成できて、言葉で喜びを表わすことはできない」と、胸をつまらせながら、偉業達成を喜んだ。イチローは、この快挙に「ジャイアンは、やったね。もっとジャイアンになるんだろうね」と、イチローらしい言葉で祝福した。
昨季までのマリナーズ11年間で、積み上げた勝ち星は143。200勝は通過点。「300勝クラブ」入りも夢ではない。「悪童」「ジャイアン」「キング」…。今季も、個性あふれるエルナンデス投手に注目だ。