プロ入りから5年…“もうひとつ”のプロ初安打
楽天のドラフト1位外野手・オコエ瑠偉が、プロとしての新たな“第一歩”を踏み出した。
5月31日に行われた楽天-阪神の交流戦。スタメン出場したオコエは、7回に阪神2番手・榎田からライトへのプロ初安打を放った。
10打席目にして初めてスコアボードに灯った「H」の文字。高卒1年目の18歳がキャリアの一歩目を踏み出した瞬間だった。
オコエがプロ初ヒットを打った5月31日。奇しくも同じ日に、もう一人「プロ初ヒット」を記録した選手がいるのだが、誰だかお分かりだろうか。日本ハムの5年目・大嶋匠である。
2011年のドラフト7位で入団した大嶋は、早稲田大学のソフトボール部出身。これまでなかった異色な経歴を持つ男の挑戦は、大きな話題となった。
小学校までは軟式野球をやっていたという大嶋だが、進学した中学に野球部がなかったため、ソフトボール部へ入部。高校時は高校総体と国体で優勝を収めると、早大でも大学通算80本塁打の大活躍を見せた。
日の丸を背負って国際大会への出場も果たすなど、ソフトボール界からも将来を期待される選手だったが、大嶋は前人未到の挑戦に挑むことを決意する。
“3度目の昇格”で飛び出した1本
しかし、入団直後は大きく扱われていたものの、露出は徐々に減少。ケガや手術の影響などもあって、プロ入りから2年間は一軍出場もなく、静かに過ごした。
3年目の2014年、シーズン途中に初めての一軍昇格。初出場も果たしたが、その時は1試合で1打席のみのチャンス。松井裕樹と対戦して三振に終わっている。
プロ入り当初から懸念されていたように、「野球」と「ソフトボール」というそもそもの“競技の違い”が男を苦しめた。
捕手というポジションでありながら、まずはキャッチャーミットの使い方から始めたというほど。自身もプロのレベルには達していなかったことを認めており、突然の注目に実力が追いついていかないことへのプレッシャーは相当なものだっただろう。
そして迎えた5年目の今シーズン。プロ入り後初めて開幕一軍入りを果たすも、出番は代打の1打席のみで二軍に降格。
4月に入ってもう一度昇格すると、10日の楽天戦ではスタメンで起用されたが、この日も3打数無安打。初安打が出ないまま2度目の抹消となる。
そんな中で掴んだ3度目の昇格。迎えた5月31日のヤクルト戦で初安打が飛び出した。プロ入りから5年を要したが、出場5試合・6打席目での初安打だった。
長く険しい道のりを経て掴んだ“一本”
打ったのは1-8と大量リードを許した9回裏、一死走者なしの場面。すでに試合を諦めて帰路についたファンの姿も少なくなかったが、右中間を鋭く突破した二塁打に、球場に残ったファンは大いに沸いた。
さらにその一本から打線が繋がり、この回4安打集中で3得点。逆転とはいかなかったが、完敗ムードを吹き飛ばす連打の口火を切ったのは、紛れもなく大嶋の一打だった。
翌日の勝利を呼び込んだ、と言い切るのは多少強引かもしれない。しかし、最後の猛攻が球場の空気を変え、あすに繋がる雰囲気を生み出したのは事実。そういった意味でも、大嶋の初安打は“ただの1本”以上の価値があったと言えよう。
また、何よりも最初の1本が出たことで、大嶋の中でも何かが変わるだろう。入団時に大きく話題になったことから、その後の苦しみも大きかった。しかし、苦しみながらも着実に前進し、ついに第一歩を踏み出したのだ。
“野球人・大嶋”の今後の活躍に期待したい。