殊勲の一打も、その後のシーンが話題に
ヤクルトの三輪正義が、6月26日の中日戦でサヨナラタイムリーを放った。
9回にエラーがらみで3点差を追いつかれて迎えた延長11回、9回にレフトの守備で痛恨のエラーを犯した比屋根の代打で登場した三輪が、比屋根の悔しさを晴らす一打となった。
ここで普通ならサヨナラヒットを打ったバッターにベンチの選手が集まり、歓喜の輪となる場面だが、ベンチの選手たちはホームインした川端の元へ。主役になるはずの三輪は放置され、結局自ら輪の中へ出向く。スポーツニュースでは、そんなめずらしいサヨナラの場面が話題となった。
よく言えば“ムードメーカー”であり、悪く言えば“いじられキャラ”である三輪をよく表している一幕だった。
異色の経歴、異色の起用
今年で9年目32歳になる三輪。高校卒業後は地元の企業に就職し、一度は硬式野球から軟式野球へ転向するという経歴を持つ。
しかし、硬式野球の世界をあきらめることができず。2005年、入団テストを受け、独立リーグ四国の香川オリーブガイナーズへと加入した。
転機となったのは2007年、秋季キャンプで四国を訪れていたヤクルトと2年連続で対戦すると、そこでのプレーがヤクルト首脳陣の目に止まる。そして、2007年の大学・社会人ドラフト6位でヤクルトへ入団することになった。
プロ入り後は、2年目の2009年に一軍デビューを果たすも、しばらくはファームでの出場。4年目の2011年から徐々に出場試合数が増え、一軍に定着するようになる。しかし、そのうち先発出場はほとんどなく、代走や守備固めでの出場が主である。
登録は内野であるが、2011年と2012年には外野の全3ポジションに加えてサード、セカンドと合わせて内外野5つのポジションでの出場を記録している。さらに、二軍では捕手の経験もあるという、これ以上ないユーティリティープレーヤーなのだ。
テレビ中継では見えない部分の重要性
もとは走力を見込まれての入団だったわけだが、それだけでやっていけるほどプロの世界は甘くない。
168センチと小柄な体格、遠回りしてつかんだプロ野球選手という夢を本当の意味で叶えるために、打撃や守備面での努力は大変なものだっただろう。
そして、チームに必要とされるためにムードメーカーという役割にも名乗りを上げる。試合前練習では他の選手にちょっかいを出すなど、見学しているファンへのサービスも忘れない。イニング間のキャッチボールの相手など、試合以外のところでも明るく振る舞う。特に、始球式に参加する子供たちを優しく指導し、緊張をほぐしている場面は印象的だ。
プロ9年目で本塁打数は0。今回のサヨナラヒットも、まだ今季2本目の安打。決して派手さはないが、練習中はファンへのサービスを意識した明るい振る舞いを見せ、試合がはじまるとどのタイミング、どのポジションでも出場できる準備を怠らない。そんな姿は間違いなく、野球を職業とする男の姿である。
テレビの中継では伝わらないかもしれないが、そのすべてが大事なこと。球場に行った際には、三輪のような地味ながらもチームに必要不可欠な選手たちの動きに注目してみると、野球選手という職業の奥深さが垣間見られるはずだ。