いよいよ開幕、夏の甲子園!
日本の夏の風物詩「全国高校野球選手権大会」が、8月7日(日)に開幕する。
きょう4日には組み合わせ抽選会が開催されるなど、いよいよ大会が近づいてきた今、かつて聖地を沸かせた“夏のヒーロー”たちを振り返っていきたい。
今回は2012年、第94回大会で2年生ながら大きな注目を集めたあの“奪三振マシーン”のはなし。
27個のアウトのうち、22個を三振で奪った男
毎年のように新たなスターを生み出す甲子園。球児たちにとっての夢舞台は、次のステージへステップするための絶好のアピールの機会でもある。
楽天で背番号「1」をつける左腕も、甲子園でまばゆい輝きを放ち、自ら夏の主役の座を掴んだ一人である。
松井裕樹――。当時の桐光学園の2年生エースだ。2012年の夏、1回戦は今治西高戦。この試合が甲子園デビューとなる松井は、初のマウンドでいきなり衝撃を与えた。
伸びのあるストレートと、驚異のキレ味を誇るスライダーを武器に、大会史上最多となる「10連続奪三振」と「1試合22奪三振」を記録。ちなみに、1試合を完投して積み上がるアウトの個数は27個。松井はそのうち22個のアウトを三振で奪うという離れ業をやってのけた。
“板東英二超え”への挑戦
一躍脚光を浴びた男は、2回戦の常総学院戦でも19奪三振をマーク。2試合で奪った三振は計41個……。それまで板東英二が持っていた2試合計での最多奪三振記録を更新してみせた。
坂東の大会通算記録超えにも期待が高まる中、3回戦の対戦相手・浦添商は「松井対策」を練って来る。
打席で投手よりに立ち、ノーステップ打法を取り入れて対応してきたのだ。この結果、3回二死まで三振はなし。甲子園での毎回奪三振記録は途切れたが、終盤8回からの6連続三振を含めてこの試合でも12奪三振を記録し、順調に三振の数を積み上げた。
ところが、準々決勝の光星学院戦。結果的にはこの試合でも15個もの三振を奪ったのだが、両チーム無失点で迎えた8回に田村龍弘(現ロッテ)と北條史也(現阪神)に連打され、3失点で敗退。ペースは順調だったが、敗れてしまったために数を伸ばしていくことはできなかった。
結局、この大会通算で36イニングを投げ、奪った三振は計68個。奪三振率は17.00という圧巻の数字を残した。
「68奪三振」は1大会の奪三振記録で坂東、斎藤佑樹(早稲田実)に次ぐ歴代3位という快挙であり、左腕としては史上最多の記録となった。
満を持して臨んだ3年目の夏は...
2年生にして甲子園の主役になった男。当然、その翌年の3年目には大きな期待がかかった。
3年の春には、伝家の宝刀・スライダーに頼らない投球や、チェンジアップの精度改善などにも取り組み、7月には埼玉の強豪・浦和学院との練習試合で9回を18奪三振、で1安打の無四球完封を記録するなど、さらなる成長を見せていた。
ところが、怪物左腕は激戦・神奈川で涙を呑むことになる。
日本一厳しいとも言われる夏の神奈川大会。準々決勝の相手は名門・横浜高だった。
1年をかけて“打倒・松井”に闘志を燃やしてきた相手に対して真っ向勝負を挑んだが、浅間大基(現日本ハム)や高浜祐仁(現日本ハム)らに本塁打を浴びるなど、強力打線を前に8回を8安打、3失点。三振は10個奪ったものの、敗退となり甲子園出場は叶わなかった。
プロで掴んだ自信と挫折
それでも、左腕への評価は不変。その年のドラフト会議では最多5球団が競合した末に、楽天が交渉権を獲得。入団1年目から先発として17試合に登板し、4勝を挙げた。
負け数も8つと負け越したものの、奪三振128個は、高卒ルーキーながらもリーグ5位の成績。奪三振率は9.70を記録するなど、大器の片りんを見せつけた。
さらに2年目には、大久保博元監督(当時)の下でクローザーへ転向。この決断は的中し、その年はいきなり33セーブを記録。1イニング限定が主な持ち場ながら、三振の数は103個にのぼり、防御率は0.87と抜群の安定感を誇った。
ところが、3年目の今季は壁にぶち当たる。今年も開幕からクローザーを任されたが、課題である制球に苦しむ場面が目立ち、大量失点を喫する場面も。救援失敗を繰り返すなど、苦しい戦いを強いられた。
7月に入ってからは復調の兆しを見せているが、ここまでの成績は40試合で1勝3敗19セーブ。防御率は4.14。前半戦のつまずきが大きく数字に表れてしまっている。最終的にはこれをどこまで改善できるのか、今年の苦しみは今後の野球人生の大きな糧となるだろう。
投げる長さは変わったものの、三振を奪う能力はプロに入ってからも全く錆びついてはいない。20歳にして球界を代表するクローザーになろうとしている怪物左腕のこれからに注目だ。