“クラッチヒッター”の価値
各球団残すところ15試合程度となり、ペナントレースも佳境。この頃になってくるとチームの順位争いだけでなく、個人成績の方にも注目が集まるようになってくる。
特に打撃では打率、本塁打、打点の主要三部門。これらをすべて制覇することを“三冠王”と呼ぶ。
この他、安打数と盗塁数、出塁率が表彰の対象。野手はこの6部門でタイトルレースを繰り広げている。
ところが、ある野球評論家はこんなことを言っていた。「首位打者や本塁打王、打点王は表彰されるのに、なぜ“得点圏打率”は表彰されないのだろう」...。
得点圏打率とは、「二塁もしくは三塁に走者がいる時の打率」のこと。いわゆるチャンスでの強さを計る指標である。
ちなみに、チャンスに強い打者のことを“クラッチヒッター”と呼ぶ。バスケットボールでここ一番に強い選手を指す“クラッチシューター”から派生した言葉だ。
打率が高い選手や本塁打が多い選手も称賛に値するが、「最もチームの勝利に貢献しているといえるのは、好機をものにして打点を挙げてくれる“勝負強い選手”ではなかろうか...」というのが上述の評論家の言い分。たしかに、一理あるような気がする。
得点圏打率と打点の関係
ここでひとつ指摘が入る。
「結局、打点が多い人が得点圏打率も高くなるんじゃないの?」
そう思って今シーズンここまでの得点圏打率ランキングを見てみると、意外な結果になる。以下をご覧いただこう。
【得点圏打率ランキング】※9月13日時点
<セ・リーグ>
1位 .400 高山 俊(阪神/打点58)
2位 .384 桑原将志(DeNA/打点47)
3位 .379 筒香嘉智(DeNA/打点96)
4位 .355 菊池涼介(広島/打点54)
5位 .353 平田良介(中日/打点73)
<パ・リーグ>
1位 .333 デスパイネ(ロッテ/打点91)
2位 .327 陽 岱鋼(日本ハム/打点55)
3位 .317 田中賢介(日本ハム/打点53)
4位 .314 角中勝也(ロッテ/打点64)
4位 .314 柳田悠岐(ソフトバンク/打点73)
ご覧のように、全体トップは阪神のルーキー・高山という意外な結果に。ちなみに、セの打点トップにつける新井貴浩は.340で7位、パのトップである中田翔(日本ハム)は.269で16位だった。
“勝利打点”という記録も
ただし、その打者が「本当に勝利に貢献したのか」という点は、得点圏打率では計れない。
もしかしたら大量リードの終盤など、試合が大方決まった後にたまたま多くチャンスが巡り、そこで打率を稼いでいるだけという可能性もあるためだ。
そこで最後に紹介しておきたいのが“勝利打点”という記録。読んで字のごとくチームを勝利に導く打点のことで、「最後に勝ち越した時に記録した打点」を指す。
ちなみに過去には公式記録として取り入れられ、最多勝利打点の表彰が行われていたこともあったが、基準のあいまいさなどの問題から現在は廃止されている。
【勝利打点ランキング】※9月13日現在
<セ・リーグ>
1位 15点 筒香嘉智(DeNA/打点96)
2位 14点 ロペス(DeNA/打点77) ※得点圏.263 =19位
3位 13点 坂本勇人(巨人/打点72) ※得点圏.336 =8位
3位 13点 新井貴浩(広島/打点98)
3位 13点 丸 佳浩(広島/打点86) ※得点圏.290 =14位
<パ・リーグ>
1位 18点 内川聖一(ソフトバンク/打点91) ※得点圏.288 =10位
2位 17点 中田 翔(日本ハム/打点105)
3位 16点 デスパイネ(ロッテ/打点91)
4位 12点 T-岡田(オリックス/打点67) ※得点圏.2636 =19位
5位 11点 角中勝也(ロッテ/打点64)
なお、勝利打点に関しても、「“勝ち越し点”が必ずしもその試合で最も効果的な得点であったと言えるのか」という議論によって廃止の方向へと進んだという。
結論、反撃の狼煙を上げた1点も、試合を振り出しに戻した1点も、勝ち越した1点も、相手の戦意を削いだダメ押しの1点も...。どれも勝利に貢献したと言えるだけの価値があり、どれも重要な得点である、というわけだ。
「勝負強さ」とは何者か……。答えは見る人によって異なるものなのかもしれない。