日本人選手も大延長戦を経験 川崎は延長19回裏にサヨナラのホームイン
「9回を終わり同点です。試合は延長戦に入ります」野球中継の中で、シーズン中に何度も耳にするこの言葉だ。現在の日本プロ野球では延長12回まで時間無制限で行い、決着がつかない場合は引き分けとなるシステム。
一方、MLBは決着がつくまで延長戦を行う。10年ほど前までは、アメリカン・リーグだけ現地時間で午前1時を過ぎたら新しいイニングには入らないルールがあった。その時でも、同点の場合はサスペンデッドゲームとし翌日に決着がつくまで試合を続けていた。MLBの勝敗表を見ても引き分けの項目がなく、そもそも引き分けというルール自体がないのである。
今季、MLBに所属している日本人選手も、日本のプロ野球では考えられない延長戦を経験した。
8月9日に行われたエンゼルス対レッドソックス戦は、延長19回裏にアルバート・プホルスがサヨナラ本塁打を放ち、エンゼルスが勝利した。この試合で、レッドソックスの上原浩治は延長12回に登板し2奪三振、無失点。レッドソックスが1点勝ち越した14回裏には田沢純一が登板したが、同点に追いつかれた。試合時間はなんと6時間31分。
MLBでもここまで長い試合はなかなかないのだが、翌10日に行われたブルージェイズ対タイガースは、それ以上の死闘に。延長19回裏にブルージェイズがサヨナラ勝ちしたが、試合時間は6時間37分。ブルージェイズの球団史上最長時間だったこの試合で、サヨナラのホームを踏んだのが川崎宗則だった。
川崎はこの日、7回からの出場だったのにも関わらず7度打席に立ち、延長19回裏にこの試合初安打となるセンター前ヒットで出塁。バティスタのタイムリーで熱戦に終止符を打つホームインを果たした。「そんな歴史ある試合に自分がいられてラッキーだった。最高の日になった」と疲れを感じさせないコメントを川崎は試合後に残している。
ちなみに、日本のプロ野球で最長の試合時間は、1992年9月11日に行われた阪神対ヤクルトの6時間26分。延長15回3対3の引き分けに終わった試合だ。
電車社会の日本と車社会のアメリカ アメリカ人は終電の心配をする必要がない
MLBでは延長戦の制限がなく、引き分けもない理由は「野球は決着がつくまで行うものだ」というアメリカ人そのものが持つ思想が大きい。ただ、生活スタイルも大きく関係していると見ることができる。
日本のプロ野球が行われる球場のほとんどは、最寄り駅から徒歩10分以内の場所にある。土地代が高騰している大都市で、なおかつ駅近。この条件を考慮しただけでも何千台という車を停められる駐車場を簡単に作れるはずがない。それこそ、球団側から「公共の交通機関でお越しください」と訴えかけているケースもあるくらいだ。試合時間が長くなると、最寄り駅の終電の時刻がバックスクリーンに映し出されるのを見たことがある人も多いのではないだろうか。
一方、アメリカでは電車で球場に行くことは少ない。電車網が日本ほど発展していないこともあるが、相当数の車を停められる駐車場があり、多くのファンは車で球場まで来る。つまり、アメリカのファンの多くは終電の心配をする必要がないのだ。
もちろん、電車社会の日本でもほぼ無観客試合状態であれば試合は何時まででも続けることができるかもしれない。ただ、球場や球団スタッフ、その他試合の運営に関わる人間たちも帰宅できない……という現時的な問題も存在する。
こうして考えると、電車社会か車社会かということも、野球文化の違いに影響しているひとつの要因なのかもしれない。
文=京都純典(みやこ・すみのり)