投手陣が不調に陥る中 層の厚さを見せた野手陣
「広島が強いのは鯉のぼりの季節まで」という言葉は、ここ最近の広島には当てはまらない。昨季、16年ぶりのAクラスと球団史上初のクライマックスシリーズ進出を果たしたチームは、今季も開幕から勝利を重ね、夏場を過ぎても巨人、阪神と熾烈な優勝争いを演じた。23年ぶりの優勝は逃し、レギュラーシーズン最終戦で巨人に敗れ3位に終わったが、広島の強さをはっきりと感じたシーズンだった。広島ファンの女性を指した「カープ女子」という言葉は、今季の野球界での流行語のひとつと言えるだろう。
2年連続でAクラス入りの広島だが、昨季と今季ではチームのスタイルが少し違った。
昨季は、前田健太、バリントン、大竹寛、野村祐輔が2ケタ勝利を達成。4人の投手が2ケタ勝利を挙げたのは球団では26年ぶりと、投手力の広島が復活した印象だった。
大竹が巨人にFAで移籍した今季は、新人の大瀬良大地が10勝を挙げ新人王に輝くなど、大竹の穴を埋める活躍。しかし、チーム全体では2ケタ勝利がエースの前田健太と大瀬良の2人だけ。前田以外の投手は防御率が4点台と安定感に欠け、チーム防御率も昨季の3.46から3.79に悪化した。
投手陣が苦しむ中で、チームを引っ張ったのが野手陣だ。チーム打率は昨季の.248から.272まで上がり、菊池涼介や丸佳浩が上位打線をけん引。本塁打王を獲得したエルドレッドを筆頭に外国人選手もしっかりと打線の核となった。また、地味な数字ではあるが代打陣の打率が昨季の.218から12球団トップの.277まで上昇。昨季は1本もなかった代打陣の犠飛が、今季は7本と、打率だけではなく勝負強さも発揮した。スタメンに限らず、ベンチスタートの選手も力をつけたことでチーム全体の攻撃力も増したのである。
代打の打率トップ3が広島勢で独占!鈴木誠也に、来季飛躍の予感
選手別の代打成績を見ても、小窪哲也が36打数14安打で打率.389、代打での15打点は高橋由伸(巨人)の17打点に次いでリーグ2位。堂林翔太も18打数7安打、打率.389と代打で結果を残した。そして、小窪と堂林以上に代打で好成績だったのが、来季3年目を迎える鈴木誠也で、代打成績は22打数9安打、打率.409。今季のセ・リーグ代打成績では、鈴木、小窪、堂林の広島勢がトップ3を独占という珍しい記録となったのである。
代打で4割以上の成績を残した鈴木は、9月25日のヤクルト戦でプロ入り初となる本塁打を初回先頭打者で記録するなど、思いきりのいいバッティングが持ち味だ。通算では36試合に出場し、打率.344と一軍レギュラーへの足がかりとなるシーズンを送ったと言えるだろう。シーズン終了後の21U野球ワールドカップでは日本代表の一員として、打率.423で首位打者を獲得し、ベストナインにも選出されている。来季、そんな鈴木の飛躍を予感させるひとつの数字がある。
カウント別打率を見ると、鈴木は初球に11打数5安打、打率.455と高い成績を残している。ファースト・ストライク時でも21打数9安打、打率.430と高い。今季、セ・リーグで規定打席に達した選手の初球時の平均打率は.360、ファースト・ストライクの平均打率.336だ。首位打者を獲得したマートンの初球時の打率は.394、ファースト・ストライクは.422。このマートンのように、高打率を残している選手ほど、初球やファースト・ストライクの球を確実に捉えている傾向があり、高打率を残すには積極的かつ確実な打撃が必要になることは言うまでもないだろう。
鈴木は打数こそ少ないが、そういったバッティングが確かにできている。来季もそれを継続できれば、一気にレギュラーの座を奪っても何ら不思議ではない。経験はまだまだ浅い選手ゆえ、壁にぶつかることもあるかもしれないが、鯉の中心選手となる可能性を十分に秘めている。
文=京都純典(みやこ・すみのり)