正二塁手を争う西岡と上本の対照的な発言
去る1月9日、阪神の鳥谷敬が残留を表明した。これにより、うわさされていた上本博紀、あるいは大和の遊撃コンバート、西岡剛の中堅コンバート案は立ち消えに。同時に、チーム内でのレギュラー争いが激化することとなった。
今成亮太、新井良太の正三塁手争い以上に熱いのが、上本と西岡の正二塁手争いだ。開幕直後の福留孝介と西岡の衝突事故が最後まで尾を引いた昨季の阪神。福留が本来の打撃を取り戻したのはシーズンの最終盤であり、西岡は長期離脱を余儀なくされわずか24試合の出場に終わった。
西岡に変わり、“棚ぼた”でレギュラーを奪取したのが上本だ。ただ、そういった経緯や、セ・リーグには山田哲人(ヤクルト)に菊池涼介(広島)といった派手な二塁手が多いために目立ってはいないが、上本の昨季成績はレギュラーとして十分なものであった。
上本の主な昨季打撃成績は以下の通り。
率.276 本7 点38
出塁率.368 長打率.390 OPS.758
得点90 四球70 盗塁20 三振97
リーグワースト8位の三振数はいただけないが、得点、四球、盗塁はそれぞれリーグ6位、5位、7位。鳥谷、マウロ・ゴメス、マット・マートンという強力クリーンアップへとつなぐリードオフマンの役割を十分に果たし、何より盗塁数が極端に少ない阪神にあって20盗塁を記録したその足は大いなる武器となった。
一方、西岡は先述のケガに加え、今オフには右肘を手術。リハビリの経過は順調とのことだが、持病のひざ痛もあり守備や走塁にも不安が残る。
正二塁手をめぐる二人の姿勢は対照的だ。「セカンド、ショートで出られないなら控えという気持ちで」と二遊間レギュラーへの並々ならぬこだわりを明言する西岡に対し、「意識しないわけじゃないけどなんて言っていいか分からない。自分のことをしっかりやるだけ。(守りたいのは)二塁ですが……」と、上本の言葉選びは慎重だ。
お立ち台でも冗談を言うこともなく笑顔すらめったに見せない、いかにも真面目な上本らしい発言である。
がむしゃらで貪欲なニュー上本を見てみたい
今オフの阪神の補強策は何ひとつ実を結んでいない。
昨季の覇者・巨人とのゲーム差7をひっくり返すには、想定外に活躍する新星が現れるか、そうでなければ現有戦力の底上げしか手はない。「鳥谷残留が最大の補強」との声はあるが、あらゆる数値ですでに球界トップクラスの数字を残している鳥谷にこれ以上の劇的な成績アップは見込めないだろう。
必要なのは、まだ伸びしろのある選手、つまりは上本らの飛躍なのだ。打撃と足が売りの上本だが、三振数の他にも粗さの目立つ守備には課題が残る。昨シーズン中に守備面でも確かな成長が見られたとはいえ、17失策は結果的に両リーグ最多。遊撃・鳥谷、中堅・大和は堅守で名を馳せるだけに、守備の生命線であるセンターラインをがっちり固める意味でも上本の必須課題は守備力向上だろう。
年末年始も不休でトレーニングに励んでいるという上本。リーグ3連覇中の巨人、黒田博樹の復帰に沸く広島を今季優勝候補に挙げる声が目立つ中、鳥谷に代わり内野の軸となるような飛躍を上本が見せるようなら、阪神もまた優勝争いに必ずや絡んでくるはずだ。
そのためにも、(内心はともかく……)クールな上本ではなく、がむしゃらで貪欲な姿を見てみたいのだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)