12球団随一! 広島投手陣の女房役
2013、2014年と2年連続でCS進出を果たした広島。嬉しさの反面、昨年はファーストステージ敗退という悔しさも味わった。
本気で優勝を狙う今年、目を引くのが先発投手陣だ。エース・前田健太、MLBから復帰した黒田博樹、昨季の新人王・大瀬良大地。さらに、復活を誓う福井優也に、野村祐輔、九里亜蓮、新外国人左腕・ジョンソンと、12球団随一といっていい豪華さ。救援陣も、大ブレイクした一岡竜司、中田廉、中崎翔太など、若くて勢いのある布陣となっている。
投手陣に目を奪われがちだが、チェックしておきたいのがキャッチャーだ。昨季、最も多くマスクをかぶったのはベテラン・石原慶幸。その石原に次ぐ60試合でマスクをかぶったのが、今年9年目、4月に27歳を迎える会沢翼である。昨季は5月初め頃から結果を出し続け、7月半ばにはスタメン起用されるように。8月31日の中日戦で右太もも肉離れを起こして戦線離脱するまで、攻守で好調カープを引っ張っていた。
誰もが、会沢が最後までいてくれたら……と思った2014年の成績は、65試合出場(代打含む)で、打率.307、30打点、10本塁打。少ない試合数ながら、球団史上4人目となる「捕手で二ケタ本塁打」を達成した。
茨城県出身の会沢は、小学3年生のとき、二人の兄の影響で野球を始めた。日立市立中里中学校の軟式野球部では、キャッチャーとして県大会出場。中学3年生の時点で172センチ 75キロというから、かなりガッチリした中学生だった。テレビでは巨人戦をよく見ていて、清原和博(当時、巨人)に憧れていたそうだ。
中学卒業後は、県内の強豪・水戸短期大学附属(現・水戸啓明)高校へ。甲子園出場はならなかったものの、プロのスカウトは早くからその能力に注目していた。当時の野球雑誌によれば、体格は177センチ85キロ。背筋力275キロ、握力70キロ、遠投100メートル。「その体力を守備に生かし切れず、力任せの粗雑さが惜しい」とある。が、長打力には目を見張るものがあり、「身体能力と長打力は一級品。守備はこれから」と将来性を高く評価された高校生キャッチャーだった。
打って守れる「広島のドカベン」をめざせ!
2006年秋の高校生ドラフトは、前田健太(PL学園高校→広島)、田中将大(駒大苫小牧高校→楽天/現・ヤンキース)、坂本勇人(光星学院高校→巨人)といった逸材ひしめく豊作年。後に「88世代」と呼ばれる中で、全国的に無名の会沢が3巡目(実際の順位としては、前田に次ぐ2番目)で広島に指名されたのは、「未来の正捕手」と期待されていたからだ。前田&会沢の同級生バッテリーが実現すればチームも安泰と、球団首脳陣は思い描いたことだろう。
1年目は2軍で34試合出場。捕手として目覚ましい成長を遂げていく様子を「一番の長所である長打力が話題にならないほど、守りで魅せていた」と書く野球雑誌もあった。なかなか空くことのないポジションだけに、1軍に定着するまで長くかかったが、まだまだ若い27歳。昨オフ「自分にプレッシャーをかけたい」と、古田敦也(元・ヤクルト)、谷繁元信(中日兼任監督)ら現代の名捕手がつける背番号27に変更。グラウンドに賭ける意気込みを背中で示している。
実際、首脳陣からの期待は厚く、黒田の来日初ブルペンではキャッチャーを任された。捕球後、取材陣に囲まれると「緊張しましたけど、憧れの方でもあったので、受けられて嬉しかったです。しっかりアピールして、バッテリーを組めるようにしたいと思う」とコメント。大投手・黒田の信頼を得られれば、スタメン定着にまた一歩近づくことになるだろう。
もちろん、最大の魅力である打撃力も健在だ。2月21日のオープン戦第1打席では、菅野智之(巨人)から第1号。12球団の誰よりも早いホームランとして話題をさらった。昨季はチーム打率2位の打線に会沢の長打力が加われば、恐ろしい破壊力になるだろう。
3月10〜11日の欧州代表戦に出場する侍ジャパンの一員にも選出され、上昇気流に乗っている。それでも本人は、「どんどんアピールしていかなければいけない立場なので。おごらずにやりたいです」と謙虚だ。高校時代はやんちゃと報道されたこともあるが、すっかり大人のキャッチャーへと成長。豪華投手陣をリードし、打席に立てば長打を放つ。体格こそ違うが『ドカベン』山田太郎ばりの大活躍を、今年は1年間見せ続けてほしい。
文= 平田美穂(ひらた・みほ)