「1番・DH」の衝撃
3日、イースタン教育リーグ巨人対楽天の一戦、底冷えのするジャイアンツ球場のスタンドから大きなざわめきが起こった。若手選手たちに混じって、プロ22年目の松井稼頭央がいきなりトップバッターとしてコールされたからだ。
西武時代はゴールデングラブ賞4回、ベストナイン7回受賞。メジャー7年間で日本人内野手最多の通算630試合に出場。NPB史上最高の遊撃手と評された男も39歳。5日の教育リーグ西武戦では実戦初となる中堅を守った。
あの頃、みんな背番号7に憧れた。埼玉県朝霞市出身の中村晃(ソフトバンク)は子供の頃から松井ファン。今季は自身の背番号を60から7に変更。侍ジャパンのショートを守る坂本勇人も、憧れの存在は松井稼頭央と公言している。
90年代後半、スポーツ選手が身体能力を競い合うテレビ番組で規格外のスピードを見せつけ、日米野球で来日するメジャーリーガー達は口を揃えて西武ライオンズのショートストップの圧倒的な身体能力を称賛した。
まだ衰えたわけじゃない。昨季は日米通算2500安打を達成。8月には月間打率.380を記録し、自身6度目の月間MVP受賞。11年の楽天入団後最高となる打率.291を残した。
それでもチームには23歳の大型ショート西田哲朗が台頭。アラフォー世代共通の悩み、組織の事情と俺の気持ちで板挟み。世代交代に押し出される形で、5月4日のソフトバンク戦で初めて三塁を守り、8月21日の日本ハム戦では左翼手として初出場。ポジション別出場数を見てみると、三塁46、遊撃39、外野21と内外野複数ポジションを経験。オフの契約更改の席で球団に自ら直訴し、今季から外野手登録となった。
10月に40歳を迎える2015年、今一度注目したいのはランナー松井の脚力だ。
13年の1盗塁から、昨季は失敗0の9盗塁へ増加。あの世界の盗塁王・福本豊(元阪急)でさえ、40歳になった87年シーズンは前年の23盗塁から、わずか6盗塁に激減。歴代2位の通算596盗塁を誇る広瀬叔功(元南海)も39歳のシーズンに10盗塁しながら、翌76年には2盗塁に終わった。
昨年1番打者として出場した53試合で打率.349、6本塁打の好成績を残した松井。恐らく、今季は6番以降の打順を打つと予想されるが、「40歳の1番打者」もあながちあり得ない話ではない。
史上最高の遊撃手から、史上最速の40代外野手へ…。イチローだけじゃない、リトルマツイもまだまだ元気だ。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)