野球人生で一度きりのチャンス。
今この瞬間しかないプロ野球新人王レース。近年は圧倒的に投手有利である。野手の新人王受賞者はセリーグでは10年の長野久義(巨人/外野)が最後。パリーグでは驚くべきことに98年受賞の小関竜也(西武/外野)以降、すべて投手が受賞している。
一昔前までは投手と野手のデッドヒートが当たり前。例えば80年代は、セリーグ10人中6人が野手だった。特に87年荒井幸雄(ヤクルト/外野)、88年立浪和義(中日/内野)、89年笘篠賢治(ヤクルト/内野)と後半には3年連続野手が独占。同じくパリーグでも、81年の石毛宏典(西武/内野)から86年の清原和博(西武/内野)までなんと6年連続で野手が受賞した。
まさに現代は新人野手冬の時代。そろそろ閉塞感を打破する若手野手の新人王に出現してもらいたいところだ。
昨年のドラフト会議で野手の1位指名はロッテ中村奨吾(早大/内野)、広島野間峻祥(中部学院大/外野)、巨人岡本和真(智弁学園/内野)の総勢3名。高校通算73本塁打の岡本のスケールは魅力的ながらも、高卒ルーキーの新人王はパ86年清原和博、セ88年立浪和義以降なし。2人の出身校でもあるPL学園黄金時代のレベルの高さが伺える記録だが、さすがに18歳岡本に1軍即戦力のハードルは高すぎる。好物はしょうゆスープの豚肉鍋。そんなマッサンには来年以降の候補者として期待しよう。
大卒野手1位の2人はオープン戦で明暗が分かれている。野間は初戦で巨人の小山から右翼席へホームランを放つも、その後不振に喘ぎ打率.059と開幕1軍に赤信号。対照的に中村は5日のDeNA戦で猛打賞を記録する等、ここまで打率.320と猛アピール。開幕二塁スタメンも現実味を帯びて来た。
2年目以降の有資格者の注目株は岡大海(日本ハム/外野)。昨季は開幕一軍を勝ち取るも結果を残せず、5月に左足リスフラン関節の脱臼骨折と患部の靱帯断裂の大怪我で残りのシーズンを棒に振った。
185センチ・89キロの恵まれた体格と圧倒的な身体能力が武器の右の大型外野手。今キャンプ視察に来た侍ジャパン小久保監督からも期待の選手としてその名前が挙がった噂のオカヒロミ。果たして、パ・リーグ21世紀初となる野手の新人王誕生はなるのか?
セ・リーグでは最後にもう1人、2015年を象徴するこの選手も挙げておきたい。今月2日、NPB実行委員会は所属球団から申請があったDeNAのルルデス・グリエルジュニア(キューバ/21歳・内野手)と西武の郭俊麟(台湾/23歳・投手)の新外国人選手にも新人王の資格があることを承認した。
兄と同じチームに所属する事になったルルデスは、キューバ国内リーグのオールスター戦で野手部門のファン投票1位に輝いたスター候補生。キューバの国際大会参加によりチーム帯同期間は限られるが、外国人枠を勝ち取り、ドラフト3位の倉本寿彦(日本新薬/内野手)らとのポジション争いを制した時、国境を越えて野手新人王の栄冠を摑み取るかもしれない。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)