プロ5年目の迎え大きな進歩を見せる左腕
今季はこれまでとは明らかに違う――。そう思わせるピッチングを見せているのが、プロ5年目を迎えた中日の大野雄大である。
プロ1年目の2011年は1試合の登板に終わった大野だが、2年目は4勝、3年目は規定投球回に達し2ケタ10勝、4年目の昨季は10勝8敗と貯金を作り、着実に実績を重ねてきた左腕だ。
迎えた今季、開幕4戦目の巨人戦で先発した大野は、7回1失点で勝利を挙げた。昨季までの大野は3、4月に勝ったことがなく、どちらかと言えばスロースターターの一面もあったが、今季は最初から結果を残した。
2試合目の登板となった7日のヤクルト戦はそれこそ圧巻の一言だった。7安打を許しながらも要所を締め、シーズン2勝目を自身2度目の完封で飾った。
6回2アウト一、二塁の場面では山田哲人を内角への速球でサードゴロ。9回裏、一打同点の場面では畠山和洋を外角低めへの速球で空振り三振に打ち取っている。これまでは勝負どころで球が甘くなり痛打される場面も目立ったが、今季は「ここぞ!」の場面でベストボールを投げられるようになったことが成長した大きな要因だろう。
まだ2試合の登板ながら、防御率0.56はセ・リーグトップ。16イニング投げ、与四球は2つだけと、課題と言われていた制球力も与四球数の面ではすっかり改善されている。
典型的なフライボールピッチャーだがゴロピッチャーになる可能性も!?
一段一段、着実にステップアップしているといっていい大野だが、まだ課題はある。
ゴロアウトとフライアウトの比率を計るGO/AO(※)が、昨季は0.78。規定投球回に達した両リーグの投手の中で、最もフライアウトの割合が高かったのである。データから一目で分かるように、ゴロよりも長打になる確率が高いフライを打たれやすい投手なのである。
低めに投げたほうがゴロを打たせやすいのは言うまでもないが、ボールの回転数などにより、ゴロを打たせやすいか、フライを打たせやすいかが変わることがある。たままた大野の球質がフライボールピッチャーの傾向にあるかもしれないが、それでも0.78はフライになる割合が多すぎる。
今季のGO/AOもここまで0.78と昨季までと変わっていない。しかし、19のフライアウトのうち6つが内野へのフライであることを見ると、それだけ球の力強さが増したとも考えられる。また、被安打12のうち5本がショートへの内野安打だ。仮の話だが、ショートへの内野安打がすべてアウトになっていたら、大野のGO/AOはゴロアウトの割合が多くなる計算となる。今後の投球内容にもよるが、昨季よりフライを打たれにくくなっているのかもしれない。
この辺の数字は、これから登板数を重ねるごとにはっきりとした傾向が出てくる。大量点につながらない長打を回避し、ゴロアウトの割合が増えれば増えるほど、確実に大野は勝ち星を重ねていると見ていい。フライは打者が差し込まれたり詰まったりした結果であり、アウトの多くはゴロで稼ぐ。そんなピッチングスタイルになる可能性を大いに秘めていると見ることができる。
開幕前の予想では、最下位の声が多かった今季の中日。右ヒジの手術から復帰したエースの吉見一起は勝利を挙げたものの、回復具合を見ながらの登板と万全の状態ではない。吉見が完全復活するときまで大野がどれだけ投手陣を引っ張ることができるか。下馬評を覆すためにも、左腕にかかる期待は大きい。
文=京都純典(みやこ・すみのり)
(※)ゴロアウト/フライアウト比率(GO/AO )
ゴロアウト(GO)の総数をフライアウト(AO)の総数で割り、ゴロアウトとフライアウトの比率を調べる指標。同じ 数の場合は1となり、これより数値が大きくなるほどゴロアウトの割合が高く、数値が小さくなって0に近付くほどフライアウトの割合が高い投手となる。昨季のセ・リーグ平均は1.16。パリーグ平均は1.11。