得失点差ではプラスながら最下位という“奇妙な現象”
広島が不振にあえいでいる。
開幕前には多くの野球評論家が優勝候補にその名を挙げていたが、5位・阪神に1.5ゲーム差をつけられての最下位は、想像しがたい戦績だろう。
なかでも目を引くのが接戦での敗戦の多さだ。ここまでの18敗のうち、1点差ゲームはなんと12。もはや確率論さえ無視しているほどの数字である。
リーグ3連覇中の巨人を例に挙げるまでもなく、僅差のゲームをものにできることは強いチームにおける特徴のひとつだ。残念ながら、これまでの広島は接戦をことごとく落とすという“弱いチーム”の典型となってしまっている。
逆に勝ち試合では点差を広げるケースも目立っているため、得失点差は+17を記録しながら、最下位に沈むという奇妙な現象を引き起こしているのだ。ちなみに、得失点差+17はリーグトップの数字である。
助っ人復帰に安定した先発陣など上がり目も多い
当然ながら、野球が得点を競うゲームである以上、本来、得失点差がプラスの広島は上位にいるのが自然の流れだ。
映画『マネーボール』でも注目された統計学をベースに考案された分析指標「セイバーメトリクス」には得失点から勝率を予想する「ピタゴラス勝率」と呼ばれる指標が存在する。
・(予想勝率)=(得点の2乗)÷(得点の2乗+失点の2乗)
これを広島に当てはめると、想定される勝率は.590。現在の勝率.419を大きく上回り、首位・DeNAをも上回る数字である。ただ、今季の広島は、失点も少なければ得点も少ない。そのようなレアケースだからこそ、“定理”がまったく当てはまらない結果を招いているのかもしれない。
右膝手術によりエルドレッドが出遅れているほか、期待の新外国人・グスマンも開幕早々に故障で離脱。緊急補強されたシアーホルツも成績不振で登録抹消されるなど、打線の軸を欠く上に、“菊丸コンビ”ら中心選手がそろって不振に陥っている状況では得点力不足も仕方ないとも言える。
しかし、幸いなことに今季のセ・リーグは混戦だ。今月中にはグスマンとエルドレッドが一軍に復帰するとの情報もある。先発陣は屈指の安定度を誇っているだけに、大いに上がり目はあるのだ。
打線の軸ができるまでは、本来の広島らしい足を使った野球を積極的に展開し、不調な打線をカバーするような仕掛けを行うべきだろう。5月2日のヤクルト戦では、ロサリオや石原慶幸が盗塁を成功させるなど、意表をつく攻撃も垣間見られたことにこれからの戦いに期待が持てる。
言うまでもなく、野球は不調な打線を漫然と送り出して勝てる世界ではない。若手中心のチームらしい積極攻勢で、簡単に落としていたような接戦を少しでも勝利に塗り替えていけば、いずれ優勝候補らしい姿を取り戻すはずである。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)