楽天待望の右の外野手...
2013年、球団創設以来初の日本一となった楽天。そこから、昨年は一気に最下位転落と、まさに「天国と地獄」を味わった。
心機一転、大久保博元監督を迎えた今季も波に乗れず。連勝より連敗が目につき、オリックスと最下位を争う位置にいる。
そんな状況にあって明るい話題が、ルーキー・福田将儀の台頭だ。3月28日、開幕第2戦で一軍デビューを果たし、4月中旬以降は、センターのレギュラーをほぼ手中にしている。
楽天に欠けていると指摘され続けてきた「右打ちの外野手」。ゴールデンウィーク後半、5月4~6日の日本ハム3連戦では、「1番・センター」として14打数7安打。3戦連続マルチヒットを放ち、チームの勝ち越しに貢献した。
福田は1992年4月生まれ、現在23歳。千葉県山武市(旧・松尾町)出身で、小学2年のとき「松尾キングスターズ」で本格的に野球を始めた。中学時代は硬式クラブ「九十九リトルシニア」でプレーした。
高校は父親の母校であり、千葉県屈指の強豪・習志野高校へ。100人超の部員がいるマンモスチームで、同級生に山下斐紹(現・ソフトバンク)がいた。
福田は、超高校級キャッチャー・山下とともに、2年春のセンバツにレギュラーとして出場。1回戦では終盤の8回、貴重な同点ホームランをレフトに叩き込んでいる。チームは2回戦で敗れたが、この甲子園での経験により「絶対にプロになるという思いが強くなった」と後にコメントしている。
3年夏は、千葉県大会準決勝で敗退。2010年秋のドラフトに向けて注目を集めていたのは、やはり山下(→ソフトバンク1位)だった。
当時の野球雑誌を見ると、写真入りで紹介されている山下に対し、福田は文章のみ。それでも「三拍子そろった好選手。俊足で状況判断もきっちりできる」、「遠投110メートル、50メートル走5秒8の身体能力。好打の3番で守備範囲が広い中堅手」と高評価が並んでいる。
「楽天のマーくん」に立候補したスピードスター
卒業後は、東都大学野球連盟に所属する中央大学に進学。3学年上に井上晴哉(現・ロッテ)、2学年上に鍵谷陽平(現・日本ハム)、同級生には島袋洋奨(現・ソフトバンク)らがいた。
「戦国東都」と呼ばれるハイレベルなリーグで、1年春からセンターのレギュラーを獲得。しかし、2部リーグに降格することはなかったが(1年秋に入れ替え戦は経験)、優勝もできず。大学選手権など全国大会には縁がなかった。
それでも、俊足・堅守のセンターとして評価され、ベストナインに2度選出。高評価の守備や走塁に対し、物足りないとされたバッティングも少しずつレベルアップ。山崎康晃(亜細亜大→DeNA1位)、薮田和樹(亜細亜大→広島2位)などライバルと対戦する中で、「目標を持って頑張れた」と振り返る。
2014年10月23日、ドラフト当日は大学最後の公式戦。楽天3位指名の瞬間、テレビの前にいることはできず、録画しておいたものを見て初めて実感が湧いたという。
「一日でも長く野球を続け、チームに必要とされる選手になりたいです」という意気込みとともに、「親孝行と、おじいちゃん、おばあちゃん孝行ができたのが嬉しかったです」という、ほのぼのとしたコメントが印象的だった。
即戦力と期待された大学卒選手らしく、キャンプ、オープン戦と順調にこなし、開幕一軍メンバー入り。そして、レギュラー定着と、ここまでは、ほぼ思い描いた通りの展開だろう。しかし、野球以外の部分で、思い通りにならないことがひとつある。
それは、昨年12月、新入団選手9人(育成含む)による入団会見でのこと。「ファンに呼んでもらいたいニックネームは?」という質問に、福田はこう答えたのだ。
「田中将大選手(現・ヤンキース)と同じ『将』なので、『マーくん』と呼んでいただけたら嬉しいです」
謙虚に「言いづらいのですが……」や「名前負けしないように頑張っていきたいです」などと付け加えたものの、堂々の「マーくん」立候補宣言。残念ながら、これが空振りに終わってしまっているのだが、今後の活躍によっては、「福田将儀=マーくん」が定着する可能性は十分ある。
早くも新人王の声が出始めているものの、まだ5月。ここから調子を落とすルーキーは、これまでにも数多くいた。しかし、福田の最大の武器は足である。そして、野球界には「足にスランプはない」という言葉がある。
大久保監督が掲げる「超機動力野球」に欠かせないスピードスター。グラウンドを駆け回る福田将儀は「マーくん」になれるのか――。楽天の1番・センターに注目していきたい。
文=平田美穂(ひらた・みほ)