リード時に跳ね上がる能見の得点圏被打率
虎のエース・能見篤史が苦しんでいる。2006年以来の負け越しに終わった昨季から目立つのが、終盤に突如崩れて完全な勝ち試合を落としてしまうというパターン。
5月31日の西武戦はまさにその典型と言えるゲームだった。不調の打線が4点をあげ、虎党の誰もがセーフティーリードだと確信した直後の6回裏、メヒアに同点打を浴びると、続く7回裏には渡辺直人の犠飛、秋山翔吾のタイムリーで失点を重ね、四球を出したところで降板。代わった安藤優也が中村剛也に3ランを被弾したことで、この日の能見は6回1/3を投げ5失点で敗戦投手という結果に終わった。
今季の能見がリードを守り切れないことは、印象だけではなく数字にも顕著に表れている。状況別の得点圏被打率を見ると、ビハインド時は.211、同点時は.208にもかかわらず、リード時は.364に跳ね上がる(5月31日終了時点)。
チームがリードしている状況でピンチを迎えると、高確率で失点してしまうという、エースらしからぬ投球になってしまっているのである。ちなみに、勝利数、防御率2冠の菅野智之(巨人)の場合、リード時の得点圏被打率は.150だ。
チーム浮上の鍵を握るエースの復活
6月になり季節も夏へと切り替わっていく。ここらで心機一転……と期待したいところだが、能見に追い打ちをかけるようなデータがある。昨季の能見は6月から長いスランプに陥り、2ヵ月以上も勝利から遠ざかってしまったのだ。とはいえ、それらの悪いデータをはね返し、能見には奮起してもらわねばならない。
というのも、阪神浮上の鍵は先発陣が握っていると言えるからだ。救援防御率はリーグ唯一の4点台でダントツの最下位、さらには、打率、本塁打、盗塁、得点などあらゆる打撃要素でも最下位に沈む今の阪神が勝つ手段は多くはない。試合を作る先発投手が少ないリードを守ったままなるべく長いイニングを投げ、守護神・呉昇桓にバトンをつなぐ——それしか手はないのだ。
ただ、その中心である能見にふがいない投球も見られる今、エースの座も危ういという声も聞かれる。しかし、昨季は最多勝に輝いたとはいえメッセンジャーはあくまで助っ人、岩田稔は昨シーズン復活したに過ぎず信頼感では劣る。今最も安定している藤浪晋太郎もまだ3年目の21歳。やはり虎のエースは能見以外にいない。
メッセンジャー、岩田、藤浪は直近の先発試合でそれぞれ無失点投球を披露した。主要先発陣の投球内容は確実に上向いている。そろそろ真のエースが、らしい投球を見せつけるときだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)