優勝目指すチームの救世主! 負け知らずのサブマリン
首位に立った阪神がじわじわ差を広げようとしているセ・リーグ。独走を阻むべく食らいつくのが、昨季の首位・巨人と、最下位・ヤクルトという構図だ。昨季、先発陣が総崩れして最下位に終わったヤクルトは、大健闘といえるだろう。
意地を見せる投手陣のなかで注目を集めているのが、サブマリン・山中浩史だ。昨季途中、新垣渚とともにソフトバンクから移籍。昨年は未勝利に終わったが、今年6月12日、29歳にしてプロ初勝利。そこから、破竹の6連勝。国鉄スワローズ時代の大投手・金田正一に続く連勝記録で、新聞各紙でも大きく報道された。18日のDeNA戦は7回途中、8安打1失点で降板したが、いまだ負け知らずである。
中学卒業後は、熊本市立必由館高校に進学。遊び感覚でアンダースローを試しているうち、「自分に合っている」という手応えを得た。お手本にしたのは、日本を代表するサブマリン・渡辺俊介(当時、ロッテ)。2年生の5月に行われた大会で強豪校を抑えて自信をつけ、そこからずっとアンダースローを貫いてきた。
3年夏は、県大会を勝ち抜いて甲子園出場。しかし、故障していて登板機会はあまりなく、初戦敗退した甲子園でもリリーフ登板。同学年の西村健太朗(広陵高→巨人)らがクローズアップされる中、特に騒がれることもなく高校野球を終えた。なお、今年からチームメートになった成瀬善久(横浜高→ロッテ→ヤクルト)も、同じ1985年生まれ。高校からプロ入りした西村と成瀬は、今年で12年目である。
高校卒業後は、投手指導に定評がある九州東海大学へ。3学年上には松岡健一(現・ヤクルト)がいた。山中は3年から主戦となり、春と秋のリーグ戦連覇に貢献した。2006年大学選手権出場では、初戦で東北学院大と対戦。1学年上のエース・岸孝之(現・西武)に投げ勝ち2回戦を果たしている。しかし、当時、九州の大学生投手といえば、本格派右腕・白仁田寛和(福岡大→阪神1位→オリックス)。サブマリン・山中をドラフト指名する球団はなく、Honda熊本で野球を続ける道を選んだ。
トレード放出からローテーション投手へ大躍進!
Honda熊本では1年目から登板を果たす。社会人時代の主な記録は、1年目の2008年=日本選手権出場(2回戦)、2009年=都市対抗野球出場(3回戦)、2010年=アジア大会銅メダル獲得、2011年=都市対抗出場(2回戦)、2012年=都市対抗出場(初戦敗退)。在籍した5年間すべてで大きな大会に出場し、主力として結果を残している。アマ時代は、MAX133キロのストレートと80キロ台のスローボールを操り、完成度の高い投球術を持ち、国際大会の経験も豊富。「プロへのラストチャンス」と公言した2012年秋、ソフトバンクがドラフト6位で指名。27歳で迎えたプロ入りに「順位は気にしません。入ってからが勝負です」とコメントした。
1年目の2013年、開幕ローテーション入りするも結果を残せず。二軍では10勝をあげて最多勝に輝くが、一軍では17試合で0勝2敗。そして、2年目の2014年7月、一軍未勝利のまま、新垣渚とともにヤクルトへ。川島慶三、日高亮との、2対2の交換トレード要員となった。心機一転、移籍直後の試合でリリーフとして好投するも、プロ初勝利ならず。しかし、移籍先のヤクルトには、サイドスローとして活躍した高津臣吾コーチがいた。昨秋キャンプで指導を受け、投げる際の右手首の角度を変えたことが大きな転機になったという。
今春キャンプ、開幕は二軍スタートだったが、5月から先発起用されると結果が出るように。先発陣が手薄な一軍にローテーションの谷間を埋める形で加わると、6月12日の西武戦でプロ初勝利。社会人出身のサブマリンという共通点がある、1歳上の先輩・牧田和久との対決を制した。その後は、一軍と二軍を行ったり来たりで起用されてきたが、投げる度に勝利をつかむ。後半戦からは完全に一軍定着。ローテーションの一角として、勝利を期待されるようになった。
ヒーローインタビューでは、「一人ずつ打ち取ることだけ考えています」「(勝利は)野手の方が打って守ってくれているだけです」と謙虚に話す。一方で野手陣は、無駄な四球がなくテンポよく投げる山中について、「守りやすい」「攻撃の時間が増えて、いいリズムができる」と話す。真中満監督も「ストライク先行でリズムがよく、野手は守りやすい。右のアンダースローだけど、左打者をあまり苦にしない」と評価する。
しかし、7戦目の登板となったDeNA戦の翌日、19日午後。右大胸筋の肉離れ(軽度)で登録抹消と発表。山中は「残念です。迷惑をかけたくないので、早く万全の状態で戻りたい」とコメントした。
崖っぷちから這い上がったいま、もう、自分一人の体ではない。怪我が発覚した後に真中監督が発した「痛いね……」は、チーム全員、そして、ファンからの言葉でもある。熾烈を極めるであろうペナントレース終盤、そして、CSに向けて――。
ここから浮上してこそ、本当の「沈まぬサブマリン」である。
文=平田美穂(ひらた・みほ)