グラウンドで起こる様々なことを瞬時に数値化
野球も、映像やデータなどによる分析は当たり前の時代になったが、MLBでは今季から新たなシステムの運用が開始された。Statcast(スタットキャスト)というもので、光学カメラとミサイル追尾用のレーダーを使用し、グラウンドで起こる様々なことを数値化するシステムだ。
例えば、投手が投げた球の回転数、打者の打球のスピードや角度以外にも、外野手がフライをどのように追ったかまで把握できる。また、打球が上がった瞬間、落下地点とそこにたどり着く最短のルートを計測し、野手がどれだけ無駄なく落下点まで走っていったかもわかる。
Statcastでは、選手が走るときのスピードもわかるのだが、今季のイチローは一塁から二塁に向かう際のスピードが時速で約26キロだった。これはリーグの平均とほぼ同じ数字で、全盛期からは大きく落ちているという。
一方、イチローがメジャーでトップの数値を残しているものもある。一塁走者時のリードの大きさだ。イチローが一塁走者時にとるリードの大きさは平均で約3.9メートル。2位の選手より10センチ以上も大きなリードをとっているそうだ。一般的に足の速い選手ほど大きなリードをとりやすいとも言われているが、イチローはリーグ平均レベルの走力にも関わらず、メジャーで一番大きなリードをとっている。
野球のデータ化は加速するのか?
日本と比べ、メジャーの投手は牽制やクイックモーションがあまり得意ではない。走りたければどうぞ、本塁に還さなければいいと言っているのかと思うほど大きなモーションで投げる投手もいるため、リードをとりやすい面もある。
しかし、それでも大きなリードをとるには、それなりの勇気と確固たる自信がなければ無理だろう。脚力は衰えても、イチローには大きなリードから瞬時に帰塁できるテクニックや、優れた反射神経がまだあるのだ。
野球のデータに関する話では、最近こんなこともあった。メジャーでは日本と同じく、試合中にダッグアウト内でiPadなどの通信端末の使用は禁止されていた。しかし、レギュラーシーズンの最終週に、WiFiに接続しないことを条件にダッグアウト内での使用を試験的に解禁となった。
あらかじめ球団側が試合に必要なデータを端末に入れ、機構側に渡す。試合までは源寿に保管され、プレーボール直前に改めて手渡されるようになっている。これまでは日本のプロ野球と同じように、データをプリントした大量の紙をバインダーに挟み、ベンチに持ち込んでいた。それがひとつの端末ですむようになったのだ。
とはいえ、映像を見ることは不可能なため、これまで通りバインダーで済ませているチームもある。わざわざ端末を持ち込まなくても、必要なデータはあらかじめ用意した小さなメモ用紙で十分という監督もいる。
来季以降、通信端末の使用がどうなるかわからないが、Statcastとともに野球のデータ化がより一層進んでいくのではないだろうか。
文=京都純典(みやこ・すみのり)