ハマに現れたルーキー守護神!
終わってみれば、王者・ソフトバンクの強さが際立った2015年のプロ野球。ペナントレース90勝、日本シリーズ4勝1敗と、盤石の戦いぶりだった。
稀にみる大混戦となったセ・リーグは、昨年最下位のヤクルトが抜け出し優勝。低迷を続けるDeNAは、前半戦を首位で折り返して盛り上げたが、結局は最下位でシーズンを終了することに。4年間指揮を執った中畑清監督も辞任した。
10月3日に行われた中畑監督の退任セレモニーでは、ルーキーの山崎康晃が号泣。涙の理由を聞かれると、「(ドラフトで)くじを引いてくれたのが監督。抑えに抜擢してくれたのも監督。監督のおかげです。監督の下でやれてよかったです」。1年目から守護神としてチームを支えた右腕は、中畑監督への感謝の思いを言葉にした。
山崎は、1992年10月生まれの23歳、東京都荒川区出身。野球を始めたのは小学生のときで、森本稀哲(今季で引退)の影響だそうだ。同じ小学校、中学校出身のプロ野球選手は憧れのヒーローであり、親同士の仲がいいという。
中学時代は、荒川区立尾久八幡中学校の軟式野球部と、軟式クラブ「西日暮里グライティーズ」でプレー。さらに、Kボール(重さと硬さが硬球と同じゴム製ボール)の選抜チーム「オール東京」の投手兼外野手として、全国大会ベスト8。直接対決はなかったが、同大会で優勝した「宮崎K-CLUB」には浜田智博(現・中日)がいた。
進学先に選んだのは、憧れである森本稀哲の母校・帝京高校。常に全国制覇を目標に掲げる強豪校である。練習やトレーニング、上下関係の厳しさは有名で、中学まで楽しく野球をやっていた山崎は、何度もやめたいと思ったそうだ。140キロ台を投げる投手が何人もいるなかでの激しい競争。同学年だけでなく、1学年下には、甲子園で148キロをマークした怪物・伊藤拓郎(元・DeNA)がいた。チームとしては、2年夏、3年春と甲子園に出場してベスト8進出を果たすが、山崎の出場は、いずれも負け試合でのリリーフ登板。投手陣の中で、二番手、三番手の存在だった。
そこからMAX148キロにまで成長を遂げ、3年夏は背番号1を獲得。しかし、「実質、タクロー(伊藤拓郎)がエースだった」と振り返る。東東京大会5回戦でコールド負けして、甲子園出場ならず。秋のドラフト会議に向け、プロ志望届を提出したものの指名なし。女手ひとつで育ててくれた母親に「4年後にプロになる。もう一度、野球を学ばせてほしい」と頼み、東都大学リーグの名門・亜細亜大学に進学した。
東都のエースから「ハマの守護神」へ!
亜細亜大学も厳しいことで有名なチームであるが、他に道はないという崖っぷちで耐え抜いた。2学年上に東浜巨(現・ソフトバンク)、1学年上に九里亜蓮(現・広島)がいるなか、1年から公式戦で登板。初登板で自己最速の149キロをマークした。チームは、1年秋から4年春までリーグ6連覇。大学選手権は、2年、3年時に準優勝、4年時にベスト8。秋の明治神宮大会は、1~3年と出場し、3年時に優勝。4年・九里→3年・山崎という盤石の投手リレーで臨み、胴上げ投手となった。
4年秋はリーグ優勝できなかったものの、春のリーグ戦ではMVPを獲得。ドラフト上位指名確実といわれるまでになっていた。迎えた秋のドラフト会議では、早稲田大学のエース・有原航平(現・日本ハム)を1位指名してはずしたDeNAと阪神が競合。中畑監督が当たりくじを引き当てた。翌日、山崎を訪ねた中畑監督は、会場で締めていたネクタイと「共に頑張ろう」と記した当たりくじを手渡し、「先発ローテ決定!」と報道陣の前で抱擁した。
しかし、キャンプ、オープン戦と結果が出ない。3月のファンミーティングの壇上、中畑監督が「(リリーフを)やってみるか!」と振ると、山崎は「やりたいです」と即答。前年に21セーブをあげた三上朋也の故障というチーム事情もあったが、関係者や報道陣もビックリの状況で、「ハマの小魔神」が誕生した。
プロ初登板は、3月28日の巨人戦。開幕2戦目、大量リードに守られての1イニングを3人で抑えた。3月31日、本拠地・横浜スタジアムでの広島戦でプロ初セーブ。4月22日の阪神戦から9試合連続セーブ。5月には新人最多の月間10セーブ。もちろん、打たれることもあったし、中畑監督から「休養」を言い渡されたこともあった。それでも「体がキツい時期もありましたが、一軍のマウンドで投げられることが楽しいし、嬉しいです」と投げ続けた。インステップから投げ込む威力のあるストレートと、魔球・落ちるツーシームを操る「ハマの小魔神」は、チーム最多の58試合に登板。新人最多記録の37セーブをマークした。
さらに、11月8日に開幕する「世界野球WBSCプレミア12」日本代表に、ルーキーとして唯一選出。「中継ぎでも抑えでも精いっぱいの力を尽くして、前に前に攻めていきたいです」「僕のような経験不足の選手はいないし、いろんなことを吸収したいです。今後の野球人生のきっかけになる舞台だと思っています」とコメントした。
今年の新人王最有力候補が、その発表前、世界を相手にマウンドに立つ。シーズンの疲れも抜けたであろう。万全の状態での全力投球を、この秋の楽しみとしたい。
文=平田美穂(ひらた・みほ)