時代は大谷、山田ら新世代へ
「大谷翔平、涼しげにベンチに戻って行きます!」
実況アナはそう絶叫した。プレミア12初戦の韓国戦、10個目の三振を奪いベンチに戻る背番号16。6回2安打10奪三振の無失点投球。大谷は最速161キロを計測し、147キロの高速フォークで韓国打線を圧倒してみせた。
この試合、日本代表のスタメン平均年齢は26.7歳。途中出場選手も含めた全14名の平均も25.8歳。30歳以上は32歳の中村剛也と松田宣浩、30歳の嶋基宏の3名のみ。この日投げた投手陣は、21歳の大谷、24歳の則本昂大、20歳の松井裕樹と全員20代前半。今シーズン、球界は名選手の現役引退が相次いだが、侍ジャパンにも世代交代の波が押し寄せている。
過去3度のWBCではどの大会もスタメン平均年齢は30歳近く、イチロー、稲葉篤紀、小笠原道大、阿部慎之助といったチームの核となるようなベテラン選手が常にいた。投手陣では松坂大輔や杉内俊哉が松坂世代の面々が中心で、近年はダルビッシュや田中将大が日本のエースとして君臨。今大会はメジャーリーガー不参加の日本代表だが、仮に現時点でメジャー組も含め代表選考してもほとんどメンバーは変わらないだろう。
生まれ変わった侍ジャパン。これまでプロ参加の日韓戦と言えばスリリングな接戦がほとんどで、選手たちも応援するファンも普段とは違う異様な緊張感を持って試合に臨んでいた。だが、札幌ドームの大谷翔平はマウンド上で時折笑みを浮かべ、普段通りの投球をしてみせた。まるで、自分の目指すところはここよりも遥かに先といったような雰囲気を漂わせながら。
すごい選手だなと思った。90年代以降に出現したスーパースター、松井秀喜やイチロー、そして松坂大輔は常にある種のストーリー性を背負いながらプレーしていた。ONとの関係性や甲子園の物語や日本を代表してメジャー挑戦するという分かりやすい20世紀のプロ野球ドラマの数々。だが、大谷翔平や山田哲人の平成生まれの若い才能にはその手のストーリー性がない。いや、正確に言えば古き良き「ストーリー性を必要としない」選手たちの出現である。
彼らは長嶋も王も甲子園も必要としていない。あらゆるものから自由だ。160キロを投げ、トリプルスリーを達成しても、まだその先があるとファンに夢を見させてくれる、まるでマンガのようなコミック・ジェネレイション。日本球界でどんな大記録を打ち立てようとそれは通過点に過ぎない。
規格外の新しい世代の出現。2015年「プレミア12」の若き侍ジャパンは、日本球界の新時代の象徴として語り継がられることだろう。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)