かつての「優勝請負人」、名将としての資格は十分
「名将にはバッテリー出身者が多い」。
配球から守備位置の指示まで行う捕手に、対戦相手をことごとく研究し試合を組み立てる投手…。野球をよく知っているからこそこなせるポジションだ。
昨年からソフトバンクの監督に就任した工藤公康監督も、名将の資格は十分だ。
現役時代は西武・ダイエー・巨人に在籍し、それぞれの球団で日本一を経験。当時は「優勝請負人」とも呼ばれた。48歳まで現役を続け、通算224勝の日本球界を代表する左腕。その投球術は、投手の教科書ともいえる組立てで、当時の工藤監督の映像を見て研究する現役選手もいるほどだ。
組み立ては、主にストレートとカーブの2種類だが、前の打席結果や打者の癖、そして打者のわずかな目線の泳ぎまでを計算して投げ、相手を翻弄する。
現代野球では、多彩な変化球をいかにして操るかが大きなポイントで、決め球の主流はスプリットが多い。しかし、工藤監督はスプリットもカットボールも投げずに生涯この成績を積み上げたのだから、その投球術が「バイブル」と呼ばれるのも納得できる。
卓越した「会話術」
「会話術」も完璧だ。
2014年はテレビで解説者も務めた工藤監督。流ちょうな話し方で分かりやすい解説には、視聴者からも絶賛の声が上がっていた。
噛んだり、言葉に詰まったという場面は見たことがない。現役時代も、「しゃべり」に関しては報道陣を黙らせてしまうほどで、自論と経験を武器に「1」の質問を「10」にして答えていた。
若手記者が見当違いな質問をすれば、「野球をもっと勉強してこい」とばかりに、逆質問攻めで一蹴して突き放すなんてこともあった。だが、そこは優しい工藤監督。後日「勉強してきたか?」と言葉をかけ、その記者に対し1つ1つ丁寧に話をしてフォローする。
このようなやり取りで、工藤監督は惜しみなく報道陣に対しても自論を展開。一般記者を立派な「野球記者」へと育て上げる、こういった見えない部分での「育成」にも大きな貢献をしていたのは間違いない。
黄金時代の幕開けへ…
2015年は、“独走”で日本一に輝いたソフトバンク。前年日本一のチームを引き継ぎ、就任1年目での胴上げ。一見、圧倒的な戦力がもたらしたものとも見えるが、実は工藤監督が貢献した部分は大きい。
春季キャンプでは、主力相手に「生きた球」を打たせたいと自ら打撃投手を務める一幕も見られるなど、とにかく積極的なコミュニケーションを図った工藤監督。
シーズン中は選手との会話を密にし、互いになんでも話し合える関係性を作る。そして試合がはじまれば、自身の経験と自論で的確な指示を出し、いくつものピンチを乗り越えた。
圧倒的な戦力に加え、様々な修羅場を乗り越えてきた経験豊富な工藤監督を擁するソフトバンク。黄金時代はすでに到来しているのかもしれない。