35歳コンビは揃ってキャンプ二軍スタート
「さあ!おはよう!」
かつて長嶋監督はキャンプ初日の第一声でそう叫んだという。ストーブリーグも終わり目覚めの季節。今年もプロ野球が始まる。
12球団最年少の高橋由伸新監督が率いる巨人も宮崎でキャンプイン。この週末は「阿部慎之助 捕手専念」の話題がスポーツ各紙を飾った。堤GMも阿部を内野手登録から捕手登録へ戻すことを明言。球団史上最強キャッチャーとも称される背番号10が再び扇の要に戻ってきた。
元々キャンプ一軍の捕手メンバーは小林誠司、相川亮二、鬼屋敷正人、河野元貴の4名。仮に阿部を中心にスタメン捕手を回していくとしても、昨季得点圏打率.529と驚異的な勝負強さを発揮したベテラン相川は代打の切り札という起用法があるし、20代の小林や鬼屋敷には未来がある。ただ、長年控え捕手としてチームを支えてきた加藤健や実松一成には酷な現実だなと思った。
今キャンプ、二軍スタートとなったカトケンと実松。昨季のカトケンは阿部一塁転向に伴いチーム3位の32試合でマスクを被り、キャリア最多の35試合に出場。実松にしても17年のプロ生活で通算477試合に出場している百戦錬磨のベテランだ。高卒でプロ入りし今季ともに35歳。もちろん力の分かっている彼らよりも91年組の鬼屋敷や河野といった若手捕手に一軍を経験させたいという意図はあるだろう。二軍の他のメンバーも新人捕手の宇佐見真吾と松崎啄也である。
監督も代わり、世代交代が進むチーム内で厳しい立場に立たされたプロ18年生。だが長いペナントレース、必ずどこかで彼らベテランの力が必要になる時が来るはずだ。以前、巨人のある若手選手にインタビューをした時に興味深いことを言っていた。「捕手は色んなところを見なきゃサインが出せないじゃないですか。自軍ピッチャーの特徴や相手バッターの調子や、両軍ベンチも見なきゃいけない。毎日試合に出ているわけじゃないのに、出たらちゃんと勝つっていうことはベンチで相当色んなところを見ているんだと思うんです。加藤さんと実松さんは本当に凄いです」
年下のチームメイトたちはしっかり見ていたのだ。阿部慎之助という絶対的なレギュラーがいる中で腐らず黙々と準備をしていたその姿を。例え出番は少なくとも自分たちの仕事を全うし日々の準備を怠らなかった加藤健と実松一成。選手の平均寿命は約9年、平均引退年齢は約29歳という入れ替わりの激しいプロの世界で20年近く生き抜いてきた男たち。宮崎キャンプでも二軍と三軍の多くの若手選手が彼らの背中を見るだろう。
待ちに待った球春到来。今シーズンも若手の成長だけでなく、ベテランの逆襲を楽しみに待ちたい。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)