松井、長嶋、王、野村……大打者が重視していた素振り
2月に入り、12球団がそろってキャンプイン。今季、セ・リーグに誕生した3人の新指揮官たちによる直接指導もメディアを賑わせることとなるだろう。なかでも、金本知憲監督(阪神)の打撃指導に注目してみたい。
現役時代、とにかくよくバットを振った。調子の良し悪しを問わず、試合後には数十分に及ぶ素振りを欠かさない。尋常ならぬ努力を積み重ね、名スラッガーの仲間入りを果たした男が最重要視していた練習こそ素振りだ。
ともに12年に引退した松井秀喜氏と、引退翌年に行った対談では、互いに“素振り重視派”ということで意気投合。金本が「練習の8割はバットスイングだった」と語れば、松井氏は「素振りが僕のバッティングの土台」と応じている。
松井氏といえば、来る日も来る日も長嶋茂雄監督(当時)がつきっきりで素振りをさせたエピソードがあまりに有名。長嶋氏は「素振りは単純な運動だが、バットマンの技術のエッセンスであり土台。単純だから難しい」と語っている。
“素振り重視派”にはさらなる強力なメンバーがいる。長嶋氏の盟友・王貞治氏は、若き日に、荒川博コーチの指導のもと、宿舎の畳が破れるまで素振りを続けた。「バットを振るのに必要な筋肉を鍛えるには素振りが一番」と言う。
長嶋氏の永遠のライバル・野村克也氏も一派のひとり。「18から22、23歳くらいまでは基礎作りの段階。マシン打撃よりまずはバットの振り込みだ」と、特に若手選手にとっての素振りの有用性を説いている。
江越、横田、陽川、高山……期待の若手が台頭できるか
そうそうたるメンバーが口をそろえて「素振りこそ打撃の基本」と語り、実際に球史に残る大打者へと上り詰めた。そのひとりでもある金本監督による、「基本」の指導により、阪神の打撃が変わるか。
幸い、素材を見込まれている若手は少なくない。金本監督は監督就任会見で、江越大賀、横田慎太郎、陽川尚将の名を挙げ、文字通り「“振れる”選手に期待したい」と語った。もちろん、3人は春季位置一軍キャンプに名を連ねている。
また、右手首骨折の影響により二軍スタートとなったが、昨年のドラフト1位・高山俊にも注目だ。スイングスピードは驚異の161キロ。現役時代、屈指のスイングスピードを誇った金本監督の155キロをも上回る。
明治大学時代にはアベレージヒッターとなった高山だが、高校時代はスラッガータイプ。金本監督は「長打を打てる打者になってほしい」と注文をつけた。自らが獲得を希望し交渉権を引き当てた逸材を金本監督がどう育てるか。将来、振り返ったとき、松井、長嶋両氏と同様の関係に――そんな可能性もあるだろう。
金本監督就任により、阪神ファンが首を長くして待っている生え抜きのスラッガー誕生となるだろうか。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)