コラム

日米における「引退試合」の違い

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松井秀喜の引退セレモニーの模様

賛否ある引退試合での“手心”を加えたプレー


 日本プロ野球史上最長となる32年の現役生活を終え、昨季限りで引退した元中日の山本昌。現役ラスト登板となった昨年10月7日の広島戦にて、プロ野球史上初となる「50歳」での出場を果たしたが、当時は広島のクライマックスシリーズ出場がかかっていたこともあり、「引退登板」には賛否の声があった。

 山本昌に限らず、日本では公式戦で引退試合を行うケースがほとんどだ。

 引退する選手が投手なら、対戦する打者は三振する。逆の場合は、投手は引退する打者に対して真ん中近辺の速球を投げる。それが、日本での引退試合のお約束となっている。

 これらのプレーを批判する声もついて回るが、アメリカで引退試合はどのように行われているのだろうか……。


アメリカ流の“粋な計らい”


 まず、メジャーでは日本のような引退試合というものは存在しない。

 開幕前に今季限りでの引退を表明する選手もいるが、現役最後の試合となっても相手選手が手心を加えるようなことはまずない。

 にも関わらず、試合後のセレモニーでファンに対して挨拶をする光景というのもほとんど見られない。言うならば、最後まで全力でプレーし、そっとユニフォームを脱ぐのがメジャーのスタイルなのだ。


 ただし、引退試合とは別に引退セレモニーを行うことが多い。

 2013年の7月28日。前年限りで引退した松井秀喜の引退セレモニーが、ニューヨーク・ヤンキースの本拠地・ヤンキースタジアムで行われた。ヤンキースは松井と「1日契約」を結び、ヤンキースの一員として引退セレモニーの場を提供した。

 松井が最後にプレーしたのはタンパベイ・レイズだったが、この「1日契約」により、松井の現役最後の所属はヤンキースとなる。

 2009年のワールドシリーズで日本人史上初のMVPに輝き、ヤンキースのワールド・チャンピオンに貢献した松井に対する、ヤンキースなりの敬意である。

 7月28日という中途半端な日に行ったことにも理由がある。その試合は、ヤンキースタジアムで行われるシーズン“55試合目”だったからだ。

 実際は雨天中止もあり、予定通りの55試合目とはならなかったが、松井の背番号「55」にちなんだ粋な計らいだった。


古巣で引退するのがメジャーリーガーにとっての夢


 「1日契約」は山本昌が中日とも結んだが、松井は山本昌のようにプレーはしなかった。

 ファンが見守る前で契約書にサインをし、スピーチをする。球団からはレリーフなどの記念品が贈られる。文章では質素に感じるかもしれないが、盛大なセレモニーに目を潤ませる選手も多い。

 MLBにおける「1日契約」は、1965年に当時のカンザスシティ・アスレチックスがサチェル・ペイジと結んだのがはじまりとされている。その後は、あまり見られなかったが2000年代になってから徐々に増えてきた。

 その背景には、FA制度の導入で大物選手でも移籍することが増え、メジャーデビューを果たしたチームでそのまま現役を終える選手が以前と比べて少なくなってきたことがある。

 金銭面など、様々な事情でメジャーデビューした愛着のあるチームを去ったとしても、最後は慣れ親しんだチームで終えたい。ファンも選手の貢献に対して改めて賛辞を送ることができる。

 わざわざ契約しなくても……と思わなくもないが、契約書にサインをするのも演出のひとつだろう。契約をするだけなら否定的な意見もないと思うが、日本でもそういったセレモニーが行われる日はやってくるだろうか。


文=京都純典(みやこ・すみのり)
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