通称「壁」
通称「壁」とも言われる職業がある。ブルペン捕手のことだ。
打撃投手とともに、12球団が雇うスタッフ。1球団に4、5人程度だが、巨人は8人。主な仕事としては、試合前の打撃練習ではキャッチャー代行。試合が始まるとブルペンに移り、その日の登板予定の投手のボールを受ける。
ほとんどがその球団に所属していたことのある捕手で、引退したあとにそのまま務めることが多い。
この仕事、実は打撃投手より重労働だ。打撃投手の場合、打者に気持ち良く打たせることが目的なので、それほど力投しないでも済むにだが、ブルペン捕手の場合は、ほぼ全力投球の球を受け続けることになる。
しかも、一人で1日200~300球。キャッチャーミットも使い回しすることが多いのだが、ベテランになると自分で皮を張ったり、糸で結んだりして手入れをする。
もっとも大事なのが、捕球の際の「パンッ」と大きな音を立てて捕ること。そうすることで、自信のなさそうな投手も気持ち良くなり、本番の投球が変わってくるというのだ。1日で手の平が真っ赤に腫れ上がるというから、驚きだ。
これで待遇は、打撃投手とほぼ同じ。年俸500万から800万円あたりが相場。かつては、試合中の投球練習を受けることができるのは現役捕手のみ、という約束事があったため、選手として登録されていたが、今はこの約束事は撤廃されている。とにかく重労働。割に合わない仕事というイメージなのだ。
かつて、阪神のブルペン捕手を務めていたスタッフが「藤川と井川のボールは受けたくなかった、正直ね。すぐに手の平が痛くなる。それを我慢して、受けていた」と漏らしたこともあった。正直に話すと、すぐに解雇されてしまう。ブルペン捕手には“忍耐”が必要なのだ。
特殊なポジションゆえ、常に現役復帰のチャンスも!?
不遇な仕事として紹介してきたが、ブルペン捕手から現役復帰した選手もいる。
その一人が、ロッテの杉山俊介だ。現在38歳、ロッテの下部組織でコーチを務めているが、この人の経歴がおもしろい。
1996年に横浜(現DeNA)に入団し、2002年にはダイエー(現ソフトバンク)へ移籍。一軍出場は2002年の1試合だけで、2003年に一度は現役を引退した。
捕手としての実績はほとんどゼロで、2004年にロッテにブルペン捕手として採用された。すると、この年のロッテは前半戦で捕手のケガ人が続出。二軍では捕手が足りない異常事態となり、そこで5月10日、杉山が再び支配下選手登録された。主に試合途中から二軍戦でマスクを被り、20試合に出場している。
ある球団関係者は「プロ野球選手になるなら、投手か捕手。とくに捕手がいいですよ。引退後も食いっぱぐれがないですから」と話したことがあった。つまり、結果が奮わなくともブルペン捕手として雇われる可能性があるということ。それだけ、捕手は貴重だということだ。
監督でも、捕手出身者は大成することが多い。野村克也、森祇晶らは言わずと知れた名将だが、捕手の分析能力が長けていることも理由のひとつだと言われる。各球団では、ブルペン捕手をスコアラー兼任にすることも少なくない。
「壁」と言われ、黙々と投手のボールを受け続けるブルペン捕手。その重労働は、並大抵ではない。そして明確な目標もない。正直、つらいだろうが、彼らがいなければ投手は投球練習ができない。チームを支える彼らの働きに敬意を表したい。