「白球つれづれ」~第6回・日本ハム監督 栗山英樹~
「弱くてすみません」。日本ハムが借金地獄にあえいでいる4月中旬。栗山英樹監督に久しぶりに会った。苦笑いの中にも何とか浮上のきっかけを模索しているのが、表情からもうかがえる。
この直後、4月21日の西武戦で指揮官として区切りの300勝を達成。チーム史上5位の記録ながら、今季中にはトレイ・ヒルマン氏(351勝)らを抜いて大沢啓二氏(654勝)、水原茂氏(526勝)といった元名監督に次ぐ3位となるのも確実だ。
東京学芸大出身でヤクルト現役引退後は評論家のかたわら白鴎大の特任教授として教壇に立つなど、ユニークな経歴の持ち主。理論派で理知的なイメージが強い一方で、かなりの「験担ぎ」を実践している。
開幕戦では先発・大谷翔平の必勝を期して大リーグのヤンキースグッズを身に着けて臨んだ。投打の二刀流の元祖であるベーブルースの出身球団に因んだもので「大谷よ、ルースになれ」といった親心である。
また、ある日は先発・中村勝を思い「春日部共栄(同投手の出身校)に因んだものを用意した」と報道陣に明かしたことも。同校のスクールカラーはえんじ色だから同色のネクタイかパンツを着用したか?
「監督になってからひどくなりましたね。でも12球団のどの監督でも大なり小なり(験担ぎは)やっていますよ。僕みたいに口に出すか出さないかは別にしてね」
験担ぎ!? 神頼み!?
栗山監督の恩師である野村克也氏がヤクルト監督時代に、ここ一番の時には「勝負パンツ」と称してピンクの下着を身に着けて試合に臨んだことがある。元近鉄の指揮官だった佐々木恭介氏はドラフト会議で大願成就を願って褌(ふんどし)を絞めて会場入りしたこともあった。こうなると験担ぎというよりは、「身を清めて」の神頼みなのかも知れない。
また、かつての巨人のエース・江川卓の自宅では、開幕に合わせて鯛のお頭ばかりか正子夫人の工夫作が食卓に並んだ。広島なら鯉のあらい、阪神は虎屋の羊羹、ヤクルトはもちろんひと飲みと、ライバル球団を食べ飲み尽くすわけである。勝負に携わる人間はなるほど験を担ぐことも多い。
栗山監督の話に戻る。「監督がやってやれることって限られているじゃないですか? 選手のことを思って何か手助けになればそれでいい」。
北海道・札幌の郊外・栗山町にある「栗の木ファーム」が自宅兼オフィス。栗山はここをベースに野球の戦略、用兵ばかりかあらゆる選手にどんな験担ぎがふさわしいか?を考えるという。これだけ細やかな気遣いのできる将も珍しい。
巻き返しに期待
パ・リーグの今季は「ストップ・ザ・ソフトバンク」が至上命題だ。戦力的に図抜けているソフトバンクの独走を許せばペナントレースの興味も早々に失せてしまう。そんな中で対抗の一番手に日本ハムを挙げる声は多かった。何といっても投手で大谷、打者で中田翔という大黒柱がしっかりしているのは、長丁場になると威力を発揮してくるはずだ。
その大谷が未勝利のまま迎えた5月1日のロッテ戦で待望の勝利。一時は膨らんだ借金も返済間近だ。グラウンドの内外で展開される「栗山マジック」。今月は日本ハムとその指揮官の逆襲から目が離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)