「白球つれづれ」~第5回・茂木栄五郎~
何といっても名前がいい。楽天のルーキー茂木栄五郎だ。
「エイゴロー」なんて、時代が時代なら野武士か職人を思い浮かべる。インパクトの強さは名前だけじゃない。走攻守にわたってレベルの高いプレーぶりで、今やショートの定位置をがっちりとつかんでしまった。
首脳陣の信頼の大きさは思わぬところで垣間見えた。
4月20日に行われたオリックス戦。これまで堅実な打撃を見せてきた茂木のバットは湿ったまま。オリックスの先発・東明から救援陣に対して全くタイミングが合わず、気が付けば5打数5三振。不名誉なプロ野球記録(※過去に両リーグで14人)に名を連ねることになった。新人野手としては史上初だという。
普通なら、ここまでバットが空を切り続ければ、ベンチでは途中で代打の用意をする。西武の「おかわり君」こと中村剛也クラスの不動の主砲ならともかく、ルーキーである。
だが、梨田監督は次打席こそバントを命じたものの、交代させる素振りは全くなし。つまり守備、走塁を含め、今や茂木は「替えのきかない」存在と認知されているのだろう。
かつて長嶋茂雄が新人として迎えた1958年の開幕戦。当時の大エースであった国鉄・金田正一から4打席4三振を喫した。ほろ苦いデビューの悔しさをバネに、長嶋はスーパースターの階段を駆け上がった。
それと比較するのはおこがましいが、三振で存在価値を証明した稀有な例と言っていいだろう。
評論家も認める打撃センス
話題性では、ドラフト1位のオコエ瑠偉が独占した楽天キャンプ。だが、首脳陣が人気ルーキー以上に期待していたのが、ドラフト3位の茂木だった。
ベテラン・松井稼頭央の外野コンバートに伴い、ぽっかりと空いたショートのポジション。昨年は西田哲朗の活躍に期待がかかったが、負傷の影響もあって定着することはできなかった。
内野の要を誰にするのか……。これがチームの喫緊の課題だった。
そんな中で加入したのが、大学を代表する内野手として高い評価を受けていた茂木だ。早大では1年からサードのレギュラーの座を獲得し、首位打者やベストナインの常連だった。171センチの小兵ながら、俊足、強肩に加えてパンチ力もある。
キャンプ当初はプロのスピードとパワーに戸惑う場面も見られたが、開幕直前のオリックスとのオープン戦では2打席連続本塁打をマーク。最後のアピールで、「6番・遊撃」の定位置を射止めた。
「ストレートを待っていて、変化球にも対応できる。いわゆる“間”を持っている。こういう新人はなかなかいない」。元ロッテで活躍した野球評論家の得津高宏氏は、茂木の打撃センスを高く評価する。
25日現在の打率は.262。ここまで3試合続けてノーヒットだったことはない。規定打席到達の楽天ナインの中では3番目のアベレージで、ルーキーでさらにショートというポジションを考えれば十分に合格点の滑り出しだ。
「ドラ1組」には負けられない!
新人の大豊作と言われる今季。特に大学出身は阪神・高山俊(明大)や、故障により離脱となったもののオリックス・吉田正尚(青学大)らの野手陣がレギュラーを張り、投手では成績こそ上がっていないものの今永昇太(駒大)や原樹理(東洋大)らも一軍のローテーションに入っている。
しかも、彼らはいずれも「ドラ1組」。茂木としても同世代のライバルたちに負けるわけにはいかない。
アマチュア時代から「練習の虫」と呼ばれる努力家で、大切なゲームに負けると大粒の涙を流したという負けず嫌い。
三振の日本記録もひとつの勲章。これをバネに飛躍すれば、楽天球団初の“野手新人王”も見えてくる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)