「白球つれづれ」~第4回・菅野智之~
新生・高橋巨人が開幕ダッシュに成功した。ここまでのチームMVPは文句なしに菅野智之だろう。4試合に登板して無傷の3勝。投球内容も2完封を含む防御率は0.82とすべてリーグトップ。このままいけば自己最多の14勝は軽くクリアして20勝だって夢じゃない。
だが、今回ここで取り上げるのは投手の菅野ではなく、驚異の打撃だ。18日現在、9打数5安打1打点1四球で打率はなんと.556。自らのバットでチャンスを広げ、時には打者顔負けのスウィングで走者を還す。投げてよし打ってよしのスーパーマンのような働きである。
ちなみに入団以来過去3年の打撃成績を紐解いてみると143打数15安打で打率は.105で投手としては可もなく不可もなくと言ったところか。1年平均5安打の男が今年はすでにその数字に達している。今季はどこまで安打も伸ばすのか?先発日にG党は新たな楽しみが増えた。
菅野の今季のテーマは「圧倒」だ。チームは叔父の原辰徳前監督から高橋由伸新監督に。指揮官が若返れば選手も阿部、内海らベテランの衰えが顕著になり若手の成長が急務。その中で文字通り、大黒柱になるべくオフには意欲的に足腰と筋力を鍛え上げた。一回り大きくなった肉体から放たれる投球は凄みを増して最終回でも150キロをマークできるようになった。そんなエースとしての自覚が打席でもより集中心を高めているのだろう。
投打で魅せた大エースたち
「去年まではそんなに打っているという印象はなかったな。でも今年は確かに打っているね」と語るのは昨年までDeNAの監督を務めた中畑清氏。ここで古巣・巨人のエースにして強打者の話題を振ってみた。
「それはホリさん(堀内恒夫)と桑田じゃない?特にホリさんはコンパクトなスウィングで簡単に三振をしなかったね」
「甲斐の子天狗」のニックネームとともにⅤ9巨人の一翼も担った堀内。現在では参院議員の先生だが、小気味のいい投球だけでなく打者としてもとんでもない記録を持っている。1967年の広島戦ではノーヒットノーランの快挙を成し遂げたばかりか、この試合で自ら3ホーマーの離れ業まで演じているのだ。ちなみに生涯打率は.172である。甲子園の高校野球で清原和博とともにKKコンビを形成した桑田真澄の巨人時代の通算打率は2割を超している。
堀内の偉業と並び称されるのは阪神のエースだった江夏豊。こちらは1973年の中日戦で9回どころか延長11回をノーヒットノーランで抑え、そのうえに自らのバットでサヨナラホームランを叩き込んでいる。野球漫画でもここまでのドラマはなかなか描き切れないだろう。
伝説はまだ続く。西鉄黄金時代の大エースである稲尾和久は巨人との日本シリーズ(1958年)に7戦中6試合に登板して大逆転勝利。「神様仏様稲尾様」と最大級の賛辞を送られたが後のない第5戦に救援してサヨナラ本塁打。シリーズの流れを変えた一発として語り継がれる。
名投手強打者説の極め付きは1950年代から20年にわたり活躍した400勝男の金田正一。投手として通算38本塁打は未だに破れぬ史上1位だが、このうちの2本は代打ホーマー。生涯打率は.198と桑田に譲るものの11年連続本塁打や8度の敬遠四球を記録しているとなれば、これは不世出の大記録と認定してもいいだろう。
さて、投球ばかりか打撃にも目覚めた?菅野。過去の名投手のように新たな伝説を築いていけるか?先発予定だった熊本での中日戦は地震災害のため中止となり、仕切り直しの舞台は22日のDeNA戦が有力だ。3連続完封にも3連続のマルチヒットにも熱い視線が注がれる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)