「白球つれづれ」~第9回・予定調和の外にある激しさ~
最近ではめったにお目にかからないド派手な乱闘劇だった。メジャーリーグのテキサス・レンジャーズ対トロント・ブルージェイズ戦。決闘のゴングが鳴ったのは現地時間5月15日のことだった。
主役?はブ軍の主砲のホセ・バティスタ外野手とレ軍の若手、ルーンド・オドール内野手だ。8回表の攻撃で一塁に出塁していたバティスタは次打者の三ゴロの際に二塁へ併殺崩しの猛烈なスライディング。これがオドール二塁手の足を刈るほどの激しさだったから、すくさま両者はにらみ合いののちにファイティングポーズ。オドールの右ストレートはバティスタの顔面をヒットしてヘルメットとサングラスが吹っ飛んだ。あとは両軍ベンチから全選手が飛び出しての大乱闘だ。
退場者8人の乱闘劇
メジャーではチームとしていくつかの不文律が存在する。ぶつけられたらぶつけ返すという報復死球は近年でこそ少なくなったが、そうした「教育」を受けた選手は多い。加えて乱闘になると必ず全選手はベンチからでもブルペンからでも飛び出して参戦しなければならない。昨年までヤクルトに在籍、守護神として活躍したバーネット投手は今季からレ軍に在籍しているが試合後には冷静に乱闘劇を振り返っている。
「まあ、これもベースボールの一部だからね」
日本でも数々の乱闘劇が…
ひるがえって我が日本球界。こちらも過去には激しい乱闘が繰り広げられた。古くは1968年に甲子園で行われた阪神・巨人戦。当時の虎の最強助っ人投手、バッキーが王選手の頭上近くに危険球を投じたことで王の師匠でもある荒川打撃コーチがベンチを飛び出してバッキーと殴り合いに。このときバッキーは右の拳を骨折して投手生命を絶たれることとなり翌年には退団することに。
87年にはこれまた巨人で人気を博したクロマティ外野手が中日の宮下投手からの死球に激高してマウンドに突進すると強烈な右ストレート。当時の中日・星野監督は現役時代から「武闘派」で知られ、ベンチには乱闘要因を配置しているという噂も流れた。
もうひとり乱闘の常連といえばロッテ時代の金田監督。91年の対近鉄戦に登板した園川投手の死球に怒ったトレーバー選手が外野まで逃げる同投手を追い掛け回すと両軍入り乱れた大乱闘に。この時、金田監督はトレーバーの顔面を左足でキック。現役も含め8度の退場記録(当時)を持っていた金田さんだが、黄金の左手は使わずにもっぱら足を使っていた。400勝もする人は用心深さも人一倍だったのだろうか。
様々な野球の魅力
しかし、近年の日本球界ではこうした派手な乱闘は減っている。理由はいくつか考えられる。前述の金田、星野と言った武闘派指揮官が減ったこと、危険球なら即退場の規則改正がなされたこと。加えて暴力の肯定はダメという世間の風もあるだろう。
かつて乱闘は野球の華と言われた時代もあった。テレビでも珍プレー好プレー特集では面白おかしく取り上げられた。あえて誤解を恐れずに記す。
日本ハムの大谷が160キロの剛速球を投げ、ヤクルトの山田がホームランを量産する。広島の菊池が超絶のファインプレーを演じる。でも時には激しさが過ぎて脱線することがあってもいいではないか。日ごろの憂さを野球で晴らす人がいてもいいのでは。乱闘を推奨するわけではない。たまには予定調和の外にある激しさも野球の魅力の一つと思うのは筆者だけだろうか?
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)